「資本主義の行き詰まり」と「民主主義の行き過ぎ」打開の処方箋を求めて
2020年01月28日
オーストリアで1月1日、国民党と緑の党の連立合意が成立した。これは欧州にとり少なからぬ意味合いを持つ。はたして、この「中道右派と環境政党」の組み合わせは、今後の欧州諸国の先行モデルになるか。
昨年5月の欧州議会選挙以来、緑の党の躍進は目覚ましい。欧州を襲う異常気象の影響もあり、また、若者による「フライデー・フォー・フューチャー」運動の高まりもあり、今や、欧州では「環境」が一つの政治的な中心軸になっている。遠からずして緑の党の政権入りも予想されたが、これまでのところ、ドイツの地方議会選挙、スイスの国民議会選挙での躍進はあったものの、緑の党の政権入りはなかった。今回、オーストリアで初めて連立政権が形成されることとなった(拙稿「「デモ」と「環境」の「抗議」に揺れた2019年」参照)。
連立の合意成立は至難だった。国民党にとり、今までの連立相手の自由党は今回のスキャンダルを起こした張本人でもあり再び連立を組むには躊躇がある、さりとて、その前の相手である社会民主党との連立はいわゆる二大政党による大連立になるが、国民の受けはすこぶる悪い。結局、緑の党が唯一現実的な連立相手として残ったが、中道右派と緑の党の連立には越えなければならないハードルがいくつもあった。その最大のものは国民党が掲げる反難民政策であり、移民、難民の受け入れに積極的な緑の党との隔たりは大きかった。
連立合意は、合意できる最低限のところをカバーするのみで、多くの問題は先送りとなった感が強い。それでも両党は双方の歩み寄りの結果として、均衡財政、国の債務削減、所得税減税、2040年までの温暖化ガス実質ゼロ化等で合意した。難民の保護観察制度や14歳以下女子のブルカ着用禁止は緑の党が譲歩した。
さて、国民党は中道右派の政党としてオーストリアで長い歴史を誇る。しかし近年の党勢の衰退を受け、クルツ氏が打った党再生に向けた渾身の一手が「党の右傾化」だった。難民危機を契機とした高まる国民の不安にこたえ、クルツ氏が打ち出した難民受け入れ制限や女子のブルカ着用禁止は国民の支持を受け、国民党は2017年の選挙で大勝した。
そういう「右にシフトした中道右派」と「緑の党」とが今回連立を組むこととなった。これは欧州政治の中でいかなる意味を持つか。
冷戦終了から30年が経過し、我々は思ってもみなかった問題に直面している。冷戦が終了した時、資本主義の勝利は誰しもが疑わない事実のように見えたが、あれから30年経ってみると、そうでもないことが分かってきた。その最大のものが格差の拡大だろう。昨年、クレディ・スイスが発表したところでは、世界人口の0.9%が世界の富の43.9%を所有するという。わずか1%にも満たない数の者が富の半分近くを懐に入れるとの現状は、誰が見てもまともでない。現状は人々の不満がグツグツと煮えたぎっているかのようだ。
資本主義は市場の自由競争が基本だ。自由競争に勝者、敗者はつきもので、必然的に「差が生じる」のが資本主義だ。しかしそれは道徳的でないし、何より、持続可能でない。それで国家が介入し、社会福祉政策や税制により、その歪みを正すよう制度設計がなされている。現状は、その制度に機能不全があるのか、あるいは、経済が制度の予想を超え格差を生み出しているのか、あるいは、その双方か。いずれにせよ、今の資本主義が行き詰まりにあることはだれも異論がない。
第二は、それと関連するが、冷戦終結前後から勢いを増したグローバル化の弊害だ。グローバル化自体はすでに大きな流れとなり、今の世界経済を覆い尽くしているが、グローバル化はその恩恵が遍(あまね)く行き渡るというより、一部の者のみが多くの恩恵を受けるシステムだった。グローバル化の下、世界は一体となって大競争時代に突入したが、
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