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南スーダンのがばいばあちゃんの心をうたれた一言

野球人、アフリカをゆく(21)難民生活で孫に教えた生きるための「規律」の大切さ

友成晋也 一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構 代表理事

Peter Hermes Furian/shutterstock.com

<これまでのあらすじ>
かつてガーナ、タンザニアで野球の普及活動を経験した筆者が、危険地南スーダンに赴任した。首都ジュバ市内に、安全な場所を確保して、仕事の傍ら野球教室を始める。アメリカで高校野球の経験がある南スーダン人コーチ、ピーターが加わり、徐々にレベルも上がってきた。さらに元難民でウガンダの教育を受けた野球経験者ウィリアムも加わった。難民キャンプを出てウガンダの学校の野球部キャプテンを任され、名門ジュバ大学を出るまでに育ったウィリアムの育てた祖母に会いに行くことになったが……。

 たくさんの捨てられたペットボトルや空き缶。いやでも目に付く廃棄されたプラスチック製品。その合間に散逸するビニール袋。

まるでごみ廃棄場のような風景だが、もともとは人や車が通る公道。雨季に入って川のような状態でごみが浮遊し、、乾季に入って浮遊していたゴミが散逸している様子。
 ジュバ市内の街中のいたるところで目にするこの風景。南スーダンの首都ジュバはごみがあふれる町だ。雨季になるといたるところに水たまりや時には川のような流れができ、多くのごみがさらに目立つ。

 アフリカの他の国々のいくつもの都市を見てきた私にとっては、衝撃だった。一般的にアフリカではどこの国でもきれい好きな人が多く、ここまでゴミがあふれている町は見たことがなかった。

 ジュバは都市としてはとても未熟だ。それには特殊な背景がある。

内乱で都市インフラが整備されなかったジュバ

 独立前のスーダン時代、独立運動の中心地のひとつであった南部スーダンのジュバは、スーダン政府によって都市開発が意図的に遅れさせられ、交通インフラ、電気、下水道、ごみ処理施設などの整備はほとんど施されなかった。

JICAでは、ジュバ市の環境局と協力して地域住民を巻き込み意識改善を狙いとした「ごみ拾いキャンペーン」を行っている。
 かつて30万人程度と言われたジュバの人口は、独立後8年で急激に増加。現在は80万人以上ともいわれている。その間、JICAがナイル川架橋プロジェクトや給水プロジェクトで都市インフラ整備を支援し始めるも、2013年、2016年に国内で大規模衝突が発生。治安は極度に悪化し、国際協力事業も中断された。南スーダンの国家収入源である原油も大幅生産減となり、経済成長率がマイナス14%にもなれば、インフラ整備など進むわけもない。

 そもそもごみを拾っても、集めて処理する場所も治安が悪く、収集するシステムが満足に稼働していなければ、ごみは溜まる一方だ。都市衛生の観点でも喫緊の課題だ。ちなみに、JICAは廃棄物処理に関する人材育成やシステムづくり、ごみ収集車の供与などのプロジェクトを準備中である他、ごみ拾いキャンペーンなどをジュバ市と一緒になって行うなどの協力をしている。

すべてが整然としたコンパウンド

 そんなジュバ市内の中心地近くに、ピーター、ウィリアム、私を乗せた防弾車が着いた。大通りから数十メートル入った未舗装の路地に、トタン板づくりの高い塀に囲まれたコンパウンドがあった。ジュバ市内ではこのコンパウンド方式の住宅が多い。一定の敷地を壁で囲み、その中にいくつかの住居があり、共同生活をしている形式だ。

 「ここに僕のおばあさんが住んでいます」と言いながら、ウィリアムが目立たない小さなドアを押し開いて入ってゆく。私とピーターが続いて中に入った瞬間、目を疑った。

調理場にいるおばあさんとウィリアム。
 五つくらいの質素な佇(たたず)まいの建物が配置されている。土塀で屋根はトタン板。建物に囲まれた中庭の地面は土だ。しかし、その空間は、すべてが整然としていた。隅から隅まで清掃が行き届いている。余計なものは何一つない。

 「ウィリアム、綺麗な敷地だね」。感心して思わず漏らす私に、「おばあさんはきれい好きなんです」と返すウィリアム。「奥のキッチンにおばあさんがいます」といいながらウィリアムが向かう先に、スカーフを頭に巻いた年配の女性が、小屋の中で、座って火を使いながら調理をしている後ろ姿が見えた。

 「おばあさん、〇*%$#▽」と、ジュバアラビックで背中越しになにやら話しかけるウィリアム。「お客さん連れてきたよ。日本人の野球の監督なんだ」と言っている。たぶん。

 すると、振り向いたおばあさんはやおら立ち上がった。その表情は柔和でにこやかながら、背筋がピンとして芯があるように見え、凛(りん)とした雰囲気。どことなく、佐賀県に住んでいた私の父方の祖母に雰囲気が似ていたように感じた。

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