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検察が日本の政治の進化を阻害した

(31)陸山会事件で「虚偽捜査」の標的となった小沢元秘書の石川知裕氏に聞く・上

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

検察捜査が奪った日本政治の「時間」

 カルロス・ゴーンが国外に逃亡した件は日本国民の憤激を買ったが、反面で伊藤詩織氏の事件に対する警察の対応などを見ると、日本の検警察に対する信頼感はほとんどゼロに近い水準にまで低下してしまったことがよくわかる。

 しかし実は、日本の検察に対する信頼感は、2009年の「陸山会事件」で強引な捜査を進め、罪なき人々を「冤罪」に落とし込んだ時点でほとんど失われてしまったと言っていい。

 「陸山会事件」は「冤罪」を生んだだけではなく、国民が選挙で自ら選択した政権交代を形骸化させ、日本の政治の進化を大きく阻害した。

 その捜査の根底に流れていたのは、国民生活と法を守る「秋霜烈日」の正義感ではなく、検察官僚の中での卑しい出世意識と卑小な自己防衛感情だった。検察本来の歴史的使命からすれば、文字通り「万死に値す」と言ってもいい愚かな捜査だった。

 政界では珍しいほど潔癖な経理システムを持つ小沢一郎の政治団体が、その潔癖さゆえにあらぬ誤解を受け、不勉強な検事たちの疑惑を招いた。

 愚かな捜査の結果、最終的には当然ながら「無罪」が確定したが、この間に失った貴重な時間は、政治家・小沢にとっても日本政治全体にとっても大き過ぎる損失だった。

 その過程を振り返ってみると、起訴を見送った検察は、自らの体面を第一に優先させ、内容を改竄した「虚偽捜査報告書」を検察審査会に送り強制起訴させた。

 さらに民主党の反小沢勢力は「裁判の判決確定まで党員資格停止」という理不尽な結論を出した。小沢の無罪判決が確定したのは2012年11月19日。民主党政権が終わる1か月前だった。

 この事件をめぐっては小沢の秘書だった衆院議員の石川知裕ら3人の元秘書が有罪判決を受けた。政治資金収支報告書への誤記記載が有罪の理由だったが、経理の専門家らによればミスとも呼べない代物で、裁判では商法・会計学専攻の大学教授が石川の記述の方がむしろ正しいと指摘した。

 石川は検察官の聴取、法廷での証言台でも建設会社からの現金受け取りを否定し、現在も否定し続けている。真実はひとつしかない。石川は「冤罪」にもめげず、敗れはしたが2019年4月の北海道知事選に野党統一候補として立候補した。

北海道知事選への出馬を表明した元衆院議員の石川知裕氏=2019年2月8日、札幌市中央区

 そんな石川に直接話を聞いた。レコーダーを置いた場所は、石川が水谷建設から現金5000万円を受け取ったと検察が捏造した東京・赤坂の全日空ホテル(現ANAインターコンチネンタルホテル東京)2階アトリウムラウンジのテーブル。

 コーヒーカップとレコーダーを間に挟んで、細かいことまで質問を続ける私に、石川はひとつひとつ誠実に答え、約3時間のロングインタビューとなった。

別の秘書が着服した500万円が「5000万円」に化けた

――大変失礼な質問かもしれませんが、石川さんはまさにこのラウンジで水谷建設から5000万円を受け取ったと検察から追及されました。しかし、授受があったとされた2004年10月15日のその日、水谷建設の水谷功元会長と川村尚元社長は朝から仙台にいて、いったん東京に寄ってから、その足で本社のある三重県に戻ったということですね。そうなると、このホテルには立ち寄る余裕がなかったですね。

石川 はい。この事件の最大の謎はやっぱりその5000万円ですが、私ももう寝耳に水の話でした。ただ、別の秘書が翌年の4月にここで500万円もらっているんです。

――2005年ですか。

石川 はい。5000万円を2回、小沢さんサイドに渡したと水谷建設は言っていたということですが、その秘書としても5000万円みたいな嘘を証明付けられては困るので、実は500万円だったという話をしたんです。

 ただ、その取り調べは、捕まった前田恒彦検事が担当して調書を取ったので、検察側がその調書を破棄したんです。

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