シリアの忘れられた“囚人”と問われる日本の“矛盾”
シリア北東部を歩いて見えてきた真実。「平和の祭典」を控える日本に何ができるのか
安田菜津紀 フォトジャーナリスト

シリア北東部、ハサカ県マリキヤから望むトルコ側の山々
遠目に見える切り立ったトルコ側の山脈の頂は、微かに雪を被り、白く輝きを放っていた。
シリア北東部では例年よりも温かな気候が続いているためか、地平線へと続く大地はほんのり緑が芽吹き、まるで春がすぐそこまでやってきているかのような気持ちにさせてくれる。そんな日中とは打って変わって、夜の冷え切った風はコートの隙間をぬうように、容赦なく体温を奪っていく。
厳しい地での、厳しい季節。避難生活を送る人々にとっては最も過酷な時期だ。
シリア民主軍管轄の刑務所を訪ねる

シリア北東部、ハサカ県にある「元IS戦闘員」刑務所。体調不良者がこの部屋に集められていた。
昨年10月、トランプ大統領は「われわれはシリアでISIS(過激派勢力“イスラム国”)を打倒した」高らかに宣言した。この地で一時強大な力を持ったISは、果たして“終わった”のだろうか。
現在シリア北東部は、クルド人の勢力が事実上の自治を敷いている。アメリカがIS打倒のために支援してきたのも、このクルド勢力だ。彼らが主体となっているシリア民主軍(SDF)の管理下だけでも、「元戦闘員」として拘束されている男性たちは1万2000人、そのうち4000人が外国籍と見られている。
中心的な街のひとつ、ハサカの郊外にあるSDF管轄の刑務所を訪ねた。外観は学校施設のように見えるものの、ゲートから建物にたどり着くまでの短い距離を進む間にも、兵士たちがしきりに無線でやりとりを続け、物々しい警備が敷かれていた。ここには、アジアから欧米まで、様々な国籍のIS戦闘員だったとみられる男性たちおよそ5000人が収容されている。

何重もの鉄扉に仕切られた、雑居房への入り口