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「プーチン3.0」を展望する

ゴスソヴィエトを通じた新しい統治をめざすか

塩原俊彦 高知大学准教授

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2020年1月15日、年次教書の演説のなかで憲法改正の意向を突然明らかにした。同月20日には、そのための法案が下院に提出され、23日には第一読会で447票中432票の賛成を得て2月11日の第二読会審議に回された。

 憲法改正によって、プーチンは大統領任期が満了する2024年以降の新しい統治体制を構築しようとしているかにみえる。ここでは、2012年1月刊行の拙著『プーチン2.0:岐路に立つ権力と腐敗』の延長線上で2024年以降のプーチンによる統治を「プーチン3.0」とみなし、その姿を展望してみたい。

 いわば、プーチンが大統領を2期務めた2000~2008年が「プーチン1.0」の段階であり、2012~2024年(2期分だが、任期が4年から6年に)の新しい段階を「プーチン2.0」とし、プーチン1.0からプーチン2.0への「バージョンアップ」を展望したのが前述の拙著だが、プーチンは2020年1月の段階で突如、憲法改正を提案し、2024年以降の自身を含めたロシアの新しい政治形態を模索するに至った。このプーチンのもくろみを理解するためには、ソ連時代に立ち戻らなければならない。

「ソヴィエト」の重大性

拡大記者会見するプーチン大統領=2019年12月19日、モスクワ  love4aya / Shutterstock.com

 プーチンは憲法改正によって、現行憲法にある連邦ソヴィエト(上院)および安全保障ソヴィエトに加えて「国家ソヴィエト」(ゴスソヴィエト)を憲法上の機関として創設しようとしている。このソヴィエトは評議会と訳されることが多い。だが、1991年に崩壊したソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)という国名に使われていたように、ソヴィエトは単純な翻訳を拒むほど重大な意味合いをもっている。

 歴史的にみると、革命時には自発的な自治組織のような評議会とおぼしきものが自然発生することがよくみられる。ロシアの場合、1905年、血の日曜日事件後の自発的なストライキの波があらゆる革命的党派とは別に、急激にこれらストライキにかかわる人々の政治的リーダーシップを発展させた。それが労働者や兵士による評議会(「ソヴィエト」と呼ばれた)を組織するに至る。

 この経験があったために1917年の2月革命時、さまざまのソヴィエトが自発的に出現した。ウラジーミル・イリイチ・レーニンは10月革命時の第二回全ロシア・ソヴィエト大会で、「全権力をソヴィエトに」(Вся власть Советам!)という、「4月テーゼ」で打ち出されていたスローガンを文書として採択し、「ソヴィエトの国」をつくると宣言したのである。この際、ソヴィエトは複数形をとっており、単一の全国ソヴィエトへの権力の集中が想定されていたわけではないことに留意しなければならない。

 実際には、複数あったソヴィエトはレーニンが主導するボリシェヴィキによってつぶされた。にもかかわらず、ソヴィエトを乗っ取ったボリシェヴィキはソヴィエトを僭称してソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)なる国までつくってしまったところに悲劇がある。

 だからこそ、ソヴィエトを単純に評議会とは訳すのは憚られるのだ。こうした因縁をもつソヴィエトの名前をもつもう一つの機関を憲法上で明確に位置づけるというのだから、その重大性が想像できるだろう。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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