安倍改憲は「出来っこない」という通説に潜むワナ
「出来っこない」に挑むのが権力者。長期政権の最後に安倍首相が思うのは……
曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)

衆院本会議の施政方針演説で憲法改正について言及する安倍晋三首相=2020年1月20日
憲法改正は「必ずや私の手で成し遂げていきたい」と明言するのは、今日の安倍晋三首相だが、2005年に似た状況下で似たことを言った人がいた。
小泉純一郎首相である。
「出来っこない」と言われた郵政民営化
「これだけは、自分で手がけなければ」と彼が言ったこと。それは、郵政民営化だった。そして、あのとき政権・与党も含めて、永田町の通説は「出来っこない」というものだった。
確かに、当時、自民党の反対派を数えてゆけば、郵政民営化法案の成立は、数字の上では無理だった(実際、参議院では自民党議員の造反で、否決されることになる)。
国民の関心も低かった。小泉首相が前年(2004年)の内閣改造にあたり、「郵政民営化実現内閣」だと豪語した際、朝日新聞の世論調査で浮かんだ政権が優先して取り組むべき課題のトップは年金・福祉(52%)であり、郵政民営化はわずかに2%しかなかった(ちなみに憲法改正は5%だった)。
小泉首相はしきりに衆院解散を匂わせ、揺さぶりをかけるが、通説は揺るがない。永田町の大勢は、
党内の反対派を法案賛成や棄権に回らせるための脅しに過ぎない、
そもそも自民党の内紛なのに、野党を相手する衆院選で決着させようとしても、世論がついてくるはずがない、
「変人首相」のこと、否決されたら解散を言い出すかもしれないが、それよりも法案の成立の方が大事に決まっている、
といった見立てに終始した。