イラン・おしん・下町ロケット・沖縄暴行事件
[173]ウクライナ旅客機墜落現場、自動車部品工場、金曜礼拝、ホルムズ海峡……
金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター
1月15日(水) 朝、9時にホテルを出て、テヘランから南へ約30キロの郊外に住む運転手のダフマン・オモディさん宅を訪ねる。質素な2階建ての賃貸アパートの1階に、祖母と妻が暮らし、2階にオモディさんと2人の娘が暮らす。高齢の祖母の面倒を妻がみているという。イランに課されている経済制裁が一般の人々の暮らしにどんな影響を与えているのかを直接聞いてみるのが目的だった。
家に入ると、床に絨毯が敷かれていて、そこに直接座る。何だか昔の日本の畳部屋みたいな感じで懐かしさがどこかに感じられる。13歳の中学生の長女と7歳の次女の2人のお父さん。運転手だけでは生活ができず、レンガ積み(建設)の仕事もしているという。一つの仕事だけでは食べていけないそうだ。経済制裁以降、ガソリン代が高騰し、薬や医療品も手に入らなくなったと。生活苦を妻と共に訴える。次女が僕らの前でフラフープを披露してくれた。とても上手だ。そこに長女が帰宅して家族全員で輪になって長女が今日学校であったことを話している。何だか「三丁目の夕日」の世界みたいだ。
日本のイメージを聞くと、いきなり「おしん」という言葉が飛び出してきた。やっぱりか。NHKの大昔の連続ドラマ『おしん』が海外で人気を博していた時代があった。だが、それはもう昔のことだと思っていたが、ここイランではいまだに『おしん』がいいという。『おしん』はイラン人にとってお手本だと。日本はイランにとって勤勉で礼儀正しい尊敬できる国だと。ソニーやトヨタやスズキなどの名前が出ていた。心からの親日の感情を露わにされると、こちらもどう対応していいか戸惑う。
その後、ウクライナ旅客機の墜落現場へと向かう。厳重な警備が敷かれていて、警察官が入り口を塞いでいた。今の微妙な時期に、現場に外国のメディアが入るのはほぼ不可能だと言われていたが、僕らのコーディネーターNと遠藤さんの尽力で、時間制限付きで中に入ることができた。機体の残骸や遺体などはもちろん運び出された後だが、地面が大きくえぐられていて、墜落の凄まじさを物語っていた。何だか匂いもちょっとする。イランが、自国民の多く乗っていたウクライナ旅客機を誤爆するとは何という悲劇か。

ウクライナ旅客機が墜落した現場=テヘラン郊外
現場に在イランのアフガニスタン大使館員がいた。ちょうど今、午後2時から現地調査を始めるという。ウクライナ、カナダ、アフガニスタン、航空会社などの代表からなる調査団が今ここに来ているのだという。そこで僕らは現場から出ることにした。粘ると今まで撮影した素材が没収されかねない。
その後、誤爆と墜落を目撃していた少年に話を聞く。大きな音がして火だるまになって航空機が落ちていったという。この子は墜落地点まで走って行って、携帯電話で写真まで撮っていた。それを見せられたが、なかには陰惨で、とてもテレビではみせられたものではないものもあった。この子たちはこれからどんなことを考えて生きていくのだろうか。
夕刻から改革派の新聞シャルーク紙を訪ねる。対応してくれた編集局長によると、80人くらいの記者が働いていて、発行部数を尋ねると「あなたの国の朝日とおんなじくらい」とかわされた。政府の干渉について聞くと、「あなたの国よりこちらの国の方がよりコントロールされている」と言って、過去に発行禁止になったケースをあげてくれた。
編集部に降りて行くと、女性がやたらと多い。見た限りでは半分以上が女性か。国際ニュースを担当している女性記者に話を聞くと、タイのバンコクにも駐在経験があるという。女性の社会的な地位は日本よりもかなり高いような気がするが、ここを見ただけでは、まだわからない。