(34)小沢一郎が安倍政治を語る・上
2020年02月24日
司法試験を目指してきた大学院生が27歳で政界に入り、以後、自民党内では政権の中枢でこの国の政治のあり方を目撃し続け、政権党から外に飛び出してからは二度の政権交代を成し遂げて政治改革にエネルギーを注ぎ込んできた。
その小沢一郎の来歴と回想を記してきた『小沢一郎戦記』はいよいよ現時点にさしかかった。
現時点の日本政治は「安倍一強」とも言われるが、全有権者に占める自民党の得票割合は昨年夏の参院選を見ても2割を切っている。
投票率が半分の50%にも満たない低い水準であることも大きい原因だ。大半の国民が日本政治の現状に諦め切った感覚を持っていることがよくわかる。
これを逆に言えば、日本政治に希望が持てる全国的な候補者、政党が現れれば状況が一変し、安倍政治は吹っ飛んでしまうことをも意味している。その意味では、「安倍一強」という言い方は必ずしも正しい言い方ではない。
現時点のこの政治状況について、小沢一郎はどう考えているのか。
一見すると「安倍一強」だが、その政治の果実は非常に乏しく、「政治の私物化」に必要な権力を維持するために公文書を改竄、廃棄し、疑問だらけのその場しのぎの答弁を延々と続けている。
こんな安倍政治に対する小沢の批判は遠慮のないものだった。
歴史的使命感と深い洞察、持続する情熱で日本政治を揺り動かしてきた「職業政治家」(マックス・ヴェーバー)の小沢にとってみれば、「私物化」だけを頭に置く安倍政治は到底我慢のならないものだろう。
「彼の体質といったものが、こういう私物化、腐敗を生んでいると思います。何をやっても悪いと思ってない感じですね」
安倍政治の評価を聞いた質問に対して、ため息交じりに最初に出てきたこの言葉に、小沢の考え、感情が集約されているだろう。
直近の政治状況についてインタビューした小沢一郎の言葉を3回に渡って報告する。
小沢 どうしようもないくらいです。権力が長く続くと腐敗するということがあるけれども、安倍さんの場合は長いだけじゃない。彼の体質といったものが、こういう私物化、腐敗を生んでいると思います。何をやっても悪いと思ってない感じです。
――そういう感じですね。
小沢 そこが問題なんです。ああ、悪いことをやってしまった、という態度が見えればまだ論評のしようがあるけども、悪いと思わない、平気で嘘をつく。
そして権力をまったく私物化している、おもちゃのようにしているから、もうどうしようもない政権です。いまだかつて日本の憲政史上こんな政権はなかったんじゃないですか。
――具体的に言うと、河井案里さんへの1億5000万円供与の問題では、安倍首相に対して批判的だった広島の溝手顕正参院議員を落とすために、同じ自民党の河井さんに通常の10倍もの資金を注ぎ込んだと言われています。
これに対しては、安倍側近と言われる下村博文衆院議員や、あるいは中谷元衆院議員まで「尋常の額ではない」と言っていますね。同じ自民党内でこういう不公正なことをやる自民党総裁というのは、かつていなかったのではないですか。
小沢 いないですね。実際には選挙を金で動かすのは幹事長なんです。ぼくも、自民党時代に二度三度と全国レベルの選挙を担当したけれども、ぼくは各候補者にも各派閥にも公平に資金を配りました。
だから、とにかく安倍さんの体質だと思う。「あいつは憎らしい、許せない」となって、こっちに金を出そうとなったんですね。
ちょっと自民党内でも、この安倍さんのメチャクチャなやり方には批判が出始めたと思います。不協和音が自民党内でも出てきていると思う。そんな感じがする。
――それから、昨年から非常に問題になっている「桜を見る会」の私物化の問題ですね。招待客の中には、山口県の安倍首相の選挙区有権者が850人いるということがわかっています。
それから、それを含む最低でも5~6000人いるとされる安倍事務所推薦の招待客。この人たちは、会招待の対象である功労者、功績者ではありません。
これは明らかに税金を使った公職選挙法違反、買収、供応にあたるのではないでしょうか。そしてまた、税金の目的外使用ということで財政法違反でもありますね。
小沢 当然そうでしょう。これは告発されていますね。
――はい。背任で告発されていますね。
小沢 要は、検察が動かなければ仕方ないんです。
韓国の検察は大統領と対決してまでやっているのに、日本の検察、警察は官邸の顔色をうかがっているんだからしょうがない。
国としての日本は、その意味ではものすごい後進国だと思います。後進国で全体主義社会みたいなものです。
ちょっとひどすぎる。今までの歴代総理もいろいろとありましたが、それぞれに最低限の良識や常識を持っていました。しかし、安倍さんにはそういうものが全然ない。
――そういうことですね。ひどい警察、検察の話で言えば、小沢さんがまさに体験された陸山会事件というデタラメ捜査の案件がありましたが、最近の典型的な事例では、伊藤詩織さんのケースが指摘されます。
ジャーナリストの伊藤詩織氏がTBS元ワシントン支局長の山口敬之氏に乱暴されたとして告訴した事件は、告訴状を受けた高輪警察署が逮捕状を取るまで捜査しながら逮捕直前でストップがかかった経緯を含めて、社会に衝撃を与えた。
事件の経緯を生々しく描いた伊藤氏の著書『ブラックボックス』(文藝春秋)によれば、山口氏から乱暴されたのは2015年4月3日深夜。酒に強い伊藤氏は、山口氏と飲食中に初めて気を失い、意識を取り戻した時は山口氏のホテルの部屋で乱暴されていた。伊藤氏は乱暴目的で気を失わせる「デートレイプドラッグ」の使用を疑っている。
伊藤氏は高輪署に告訴したが、警察の捜査を指揮する検察は当初から消極的だった。それでも一線捜査員が積極的に捜査し逮捕状を取った。山口氏が米国から一時帰国する2015年6月8日に成田空港で逮捕する予定になっていたが、その直前に警視庁の中村格刑事部長(当時)がストップをかけた。
週刊新潮の取材にその事実を認めた中村氏は刑事部長の直前まで菅義偉内閣官房長官の秘書官を務めており、山口氏自身は安倍首相に関する著作を幻冬舎から2冊出していた。
結局、山口氏は書類送検されたが、東京地検は不起訴処分とし、検察審査会は不起訴相当の議決を出した。
しかし、一方で伊藤氏は山口氏に対して1100万円の損害賠償を求める民事訴訟を起こし、山口氏も「社会的信用を奪われた」などとして、慰謝料1億3000万円を求めて反訴した。東京地裁は判決で、山口氏の性暴力を認定して伊藤氏の訴えを認め、山口氏の請求を棄却した。
安倍首相に近く、安倍氏の関連本を2冊著している著者が、菅官房長官の元秘書官に逮捕直前に救われるという構図が一般の憤激を呼び起こし、健全な社会常識に与えた傷口は今も疼き続けている。
――山口敬之氏から乱暴されたということで被害に遭った伊藤さんが自ら名前と顔を出して告発しました。
それだけでも衝撃的なことだったのですが、現場警察は準強姦罪で逮捕状を取ったのに、逮捕直前になって当時の中村格警視庁刑事部長がストップをかけるという前代未聞のことまで起こりました。この中村刑事部長は直前まで菅官房長官の秘書官で、さらに山口氏は安倍首相を褒めあげる本2冊を書いた著者だったのですね。
こういう事態は、全警察への国民の信頼を大きく揺るがしたと思います。
小沢
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