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資本主義と環境の危機は克服できるか

市場は企業に対し急速に環境配慮を求め始めた

花田吉隆 元防衛大学校教授

世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で、気候変動についての討論セッションで演説するグレタ・トゥンベリさん=2020年1月21日(WEF提供)

 昨年来の欧州における環境意識の高まりには目を見張る。それは、とうとう欧州の枠を超え、奔流となり全世界に流れ出した。企業家にとり、今や環境配慮が経営に不可欠の要素となった。投資家が市場で選別する。株主の利益最大を目標とする「シェアホルダー資本主義」の時代は終わった。今や、全ての関係者に配慮する「ステークホルダー資本主義」が求められる。1月24日に閉幕したダボス会議の議論の焦点だ。背景に、「現代の資本主義は死んだ」との認識がある。しかし、環境配慮は「高くつく」。このハードルをどうやってクリアしていくか。

投資家が企業の環境配慮を企業の選定基準にする時代

 2018年10月、ドイツの二つの州、バイエルン州とヘッセン州で地方選挙が行われ、緑の党が大きく躍進した。背景に社会民主党の地盤沈下があるとされた。緑の党は社会民主党支持者が雪崩を打って支持を鞍替えした結果だ、との見方が喧伝された。続いて翌年5月の欧州議会選挙でも、特に欧州の北西部で緑の党が躍進した。欧州の一部地域に限ったことでないか、との見方もあった。しかし、時代の流れはそういう見方を覆す。スウェーデンの一高校生が始めた環境保護運動が瞬く間に欧州全域の若者に広がった。若者は、大人は若者の利益を本当に心配しているのか、何も動こうとしないではないか、と言って怒った。若者は危機に鋭敏だ。大人はやがて死ぬ、その後に残る我々はそのつけを払わされるのか、との主張は大人には耳が痛い。何より、グリーンランドやアルプス氷河の溶解、オーストラリアの森林火災、世界の至る所で起きる異常気象は、若者ならずとも何とかしなければならない、と考えざるを得ない。環境意識が急速な高まりを見せていく。

50年以上先を考えて投資

 そういう「時代の空気」は市場に敏感に跳ね返る。今や、投資家が、企業の環境配慮を企業価値の選定基準にする時代だ。環境配慮を無視する経営者は市場から見放される。

 ESG投資が盛んだ。ESG、すなわち投資に際し、環境、社会、企業統治を基準にする。日本経済新聞の報道によれば、運用資金125兆円にも達する世界最大の政府系ファンド、ノルウェー政府年金基金の運用担当、ノルウェー銀行インベストメント・マネジメントのイングベ・スリングスタッドCEOは、その趣旨を明快に説明し、投資は、目先のことを考えて行うのでなく、50年以上先を考えて行う、と言う。「長期で投資収益を上げるには世界経済が持続可能な形で成長していくことが欠かせない。50年の時間軸でリターンを確保すべくESGに取り組んでいる」「企業はこの5年で大きく変わった」「10年前なら自分たちのビジネスには無関係だと言っていたであろう企業も、そうは考えなくなった」

 日経の報道によれば、米最大の運用会社ブラックロックも「金融の根本が変わろうとしている」として、この1月、「2020年までに独自に銘柄を選ぶアクティブ運用で、火力発電に使う一般炭事業の売上高の多い企業を除く」とする書簡を関係方面に発出した。また、世界370超の著名投資家で作る団体「クライメート・アクション100プラス」は、温暖化ガス排出量の多い160社に圧力をかけ排出削減を求める。投資にESGを考慮する「責任投資原則(PRI)」は故アナン国連事務総長が提唱したものだが、これに現在、2372の投資家等が賛同し署名する。その数は過去10年で5倍増だ。スウェーデン中銀のリクスバンクは19年、保有するカナダ州政府債、オーストラリア州政府債を、これらの国が温暖化防止に後ろ向きとして放出した。国際決済銀行(BIS)は、めったに起きないが起きたら市場に甚大な悪影響を及ぼす「ブラック・スワン」になぞらえ環境の「グリーン・スワン(緑の白鳥)」が次の金融危機を引き起こすリスクと、警鐘を鳴らす。

 市場が一斉に環境を向いて走り始めた。企業は先を争うかのようにし、環境配慮を怠っていないことをアピールし始める。そうしないと生き残っていけない。

CO₂純減を目指す世界的企業

 1月16日、マイクロソフトは2030年までにCO₂排出量を純減するとする「カーボン・ネガティブ」を宣言した。とりあえずの世界の流れはCO₂の実質ゼロだ。マイクロソフトはこれを更に進め純減とし、時代の先を行く姿勢を明らかにした。自社構内の電気自動車による移動、再生エネルギーによる発電等により目標達成は可能とする。

 家具のイケアも2030年までにCO₂純減を目指す。再生エネルギー利用や植林活動に240億円を投じるという。

 企業は株主の利益最大を目標にすべきだ、としたのはミルトン・フリードマンで、1962年、「資本主義と自由」でそう主張した。それが米国資本主義の思想を形作り、株主資本主義が世界の潮流となっていく。そういう資本主義が今や壁に突き当たり、もはや、賞味期限切れの様相だ。格差が広がり、一部の者だけが富を独占する。

 特に、情報化がこれを促進した。GAFAと呼ばれるIT企業4社にマイクロソフトを加えた5社だけで、米国上場株式総額の12%を占める。5社の純利益は現在17兆円ほどだが、10年前は3兆円ほどだったから、この10年で6倍増だ。市場における4社の寡占が際立つ。日本のソフトバンクはLINEと統合しこれに対抗しようとするが、その研究開発費は併せ200億円程度と、GAFAの兆単位規模に比べようもない。

勝者が富を独占し、自由な競争が阻害される

 これが資本主義か、との批判が噴出するわけだ。資本主義は自由に競争するところに発展がある。その思想の上に資本主義は繁栄を遂げてきた。競争の結果、勝者と敗者が生じ、その勝者が富を独占する結果、自由な競争が阻害される。敗者は、貧困の淵に落ち込んでいく。それを是正すべく独占禁止法が制定され、

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