メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

新型コロナウイルス防疫も政治化する香港

民主派の〈五大訴求〉とつながりかねない政府のジレンマ

富柏村 ブロガー

 昨年12月中旬までには、中国の湖北省武漢で新型ウイルス感染が出ているという情報が、中国からSNSで香港に伝わってはいた。

 2003年のSARSで野生動物を食用にしたことが原因だったように、今回も武漢の特定の市場が感染源のようだ、という情報。これが昨年12月31日になって、ようやく武漢の地元メディアが報じるところとなり、待つまでもなく1月2日に香港で武漢帰りの新型ウイルス感染者が出たことが判明した。

 香港ではSARS疫禍を教訓に水際作戦を始め、1月20日に習近平国家主席が、この疫禍につき〈重要講話〉出したことで中国も国家レベルでの対応が遅まきながら始まり、感染が世界規模で拡大しているのは周知の通り。

拡大中国の習近平国家主席(右)と香港の林鄭月娥行政長官=2019年12月16日、北京

まず香港での新型ウイルス肺炎の動き

 香港政府は春節の元旦にあたる1月25日に、スイスのダボスフォーラムから戻った林鄭月娥(キャリー・ラム)長官が、香港の新型ウイルスの危険度を〈厳重〉から最高レベルの〈緊急〉に引き上げた。湖北省武漢への高速鉄道直行列車とフライトの運休、大陸との口岸(入出境地点)の一部を閉鎖し、口岸での体温検査や問診の強化、学校の休校や香港政府の一連の組織の春節休暇延長等を発表。それでも大陸との人の往来は続き、どこまで水際作戦が功を奏すのかは大いに疑問が残る。

 市民の間では大陸とのヒトの往来する〈交通〉で完全封鎖求める世論が高まったが、香港政府はそれを断行しない。近隣国では北朝鮮、ベトナム、フィリピンが2月3日までに交通遮断を即決したのに対して、一国二制度とはいえ「国内」の香港とマカオは、この決断ができずにいる。

 林鄭長官や、建制派の立法会議員で香港政府の行政会(行政長官輔弼機関)メンバーの葉劉淑儀(レジーナ・イップ)は、香港と大陸の関係は物流を含む経済活動など重要なものであり完全な交通遮断は現実的に難しいこと、大陸に居住する香港市民の保護など何かと理由を挙げて弁明に努めるが、香港では2003年のSARSで299人の死者を出しており(大陸の死者は349人)、その再現をどう防ぐかという危機感を、こうした現状説明で乗り切ることは難しい。

2019年の反逃亡犯条例を総括した区議会選挙

 香港で昨年6月から大規模な抗議運動が起きた逃亡犯条例反対の動きは、条例改正こそ林鄭長官が昨年9月5日に条例改正案撤回を表明したものの、市民はこの抗議活動に対する香港警察の暴力的な鎮圧手段に対しての非難が高まり、抗議活動は暴力化の一途をたどった。

 通常、こうした抗議行動は権力側の強行な鎮圧があれば、運動が成功しないかぎり、行動の暴力化、抗議方勢力の方向性を巡る内部分裂などで出口が見えなくなり、弱体化してゆく。香港では2014年の雨傘運動がそうであった。1989年の天安門事件に対する中央政府への抗議運動も連綿と続いいたが、若者たちが「香港の民主化も実現しないなか何故に大陸のそれを支援できるのか」と従前から支連会(香港市民愛国民主運動支援連合会)が続けてきた運動にアンチを表明し、今後の運動持続に課題が生じていた。

 香港政府も北京の中央政府も、この抗議運動の暴力化を逆手にとるかたちで抗議行動の暴力化に対して「止暴制乱」というスローガンを掲げ、香港社会の平定に期待をかけるなか、昨年11月24日、香港区議会選挙が実施された。中央政府の香港出先機関である中連弁(中央人民政府駐香港特別行政区連絡弁公室)は区議会全域で多数派を占める親北京・政府寄りの〈建制派〉が逃亡犯条例への反発で議席減でもぎりぎりの善戦と予測し中央政府に報告していたが、30万人の多くは若者が投票権登記をして投票率は71.2%と史上最高を記録(これまでは約50%)。全452議席中、民主派が386議席を獲得するという「革命的な」選挙結果となった。

 香港市民が唯一、普通選挙制度で投票できる区議会選挙で、逃亡犯条例から警察暴力に対する抗議の民意をあからさまに示したのだ。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

富柏村

富柏村(ふ・はくそん) ブロガー

茨城県水戸市生まれ。1990年より香港在住。香港中文大学大学院修士課程(文化人類学)中退。フリーランスでライターもしていたがネット普及後は2000年からブログで1日もかかさず「 富柏村香港日剩」なる日記を掲載している。香港での日常生活や政治、文化、飲食など取り上げ、関心をもつエリアは中国、台湾やアジアに広く及んでいる。香港、中国に関する記事の翻訳もあり。

富柏村の記事

もっと見る