普段の衛生管理はいい加減なフランスが示す新型肺炎の「危機管理」の徹底ぶり
2020年02月09日
世界を震撼とさせている新型コロナウイルスが欧州に上陸して約1カ月。私が住むフランスでも、中国・武漢からの帰還者が完全隔離されるなど、“戒厳令下”を思わせる緊張した雰囲気が続いている。チャイナ・タウンの中国系の子どもたちがイジメにあうといった嫌なムードも漂う。そんななか期待されているのは、狂犬病のワクチンを開発したパスツールが開設した研究所だ。
2月の初め、年末年始を過ごした東京からパリに戻ってきた。日本との最大の違いは、マスクをする人がいないことだ。東京を歩いていると、すれ違う人の多くがマスクを付け、ドラッグストアやコンビニからマスクが消えたが、パリに帰って1週間、マスクをしたパリ市民にお目にかかったことがない。
とはいえ、新型コロナウイルスを気にしていないわけではない。それどころか、新型ウイルスと新型肺炎への恐怖は日本人をはるかに上回っているようだ。私が経験したエピソードを幾つか紹介する。
その一。
日本から戻った日、パリ郊外シャルル・ドゴール国際空港でタクシーに乗ったら、運転手が「アンタ、中国人?」とすごい剣幕で聞く。「中国人なら、降りろ!」と言わんばかりだ。羽田空港を出発するときから掛けていたマスクのせいと気づき、「違う、違う、日本人よ」と慌ててマスクをはずす。
アフリカ系の運転手はバックミラーでチラチラとこちらを見ていたが、どうやら、この数年とみに増えてきた金満家の中国人観光客には見えなかったようで、やっと緊張を解いてくれた。謝罪のつもりか、「チョコレート、食べる?」と銀紙に包んだ小型チョコレートを2個、差し出した。
私がマスクを付けていたのにはワケがある。
しかも航空機は政府が帰還者用に使用した同じ会社のもの。中国を往復する飛行機とヨーロッパにいく飛行機は異なるはずだし、日本人は元来、清潔好きだから、空港内の消毒なども徹底されていると頭では理解するものの、不安は募る一方だ。
飛行機に乗り組むと、乗務員は全員、マスクを付けている。機内は密室状態なだけに、万が一、ウイルスが入り混んだら、漂い続けるのではないか。出発前にコンビニで入手したマスクをしっかりとつけたまま、日本からフライトし、パリに着いてもマスクを付けたままタクシーに乗り込んだという次第だ。
フランスのビュザン保健相は7日、シャルル・ドゴール空港をはじめ、フランスの国際空港に8日以降、中国から到着した航空機の乗客が機外に出るときには、マスクを着用するよう義務つける通達を出した。つまり、マスクを着用した人は「要注意」ということになる。
中国からはこれまで毎日約20機が到着、5000人が降り立ったたが、新型コロナウイルスの感染が始まってからは、8~10機に減り、旅行客も2000人になった。さらに、中国からの飛行閉鎖を叫ぶ声は強い。
その二。
帰国する前から予約していたパリ公立病院の耳鼻咽喉科に行った。元来、私は喉が弱く、冬場は朝起きるとしばしば喉の調子が悪い。フランスの公立病院では、主治医の紹介状がないと、診察を受けられないことが多い。診察室で日本に帰国する前に主治医に書いてもらった紹介状を見せて、「新年を家族と過ごすために帰国していました。この紹介状は昨年、出発前に書いてもらったので、ちょっと日付が古い」などと説明すると、メモを見た女医さんが、「何日にパリに到着したの?」「喉はいつから痛いの?」「熱はあるの?」「呼吸は苦しくない?」と厳しい表情で質問する。
「あっ、新型肺炎を疑っているのだ」と気が付いた途端、女医さんがすごい勢いで診察室から出ていった。
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