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『ロシア的人間』からみた「プーチン3.0」の本質

「服従」をテコに地上に踏みとどまろうとする生き方

塩原俊彦 高知大学准教授

 すでにこのサイトにおいて、プーチン大統領が提案した憲法改正および2024年以降のプーチン体制について、「「プーチン3.0」を展望する」で論じた。だが、それだけでは、ロシアで起きていることは理解できないのではないか。そこで、もう少し本質的な議論を改めて展開したい。

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ロシア人の特殊性

 日本人には日本人の文化があり、ロシア人にはロシア人の文化の滓(おり)のようなものがあるに違いない。私淑する師、井筒俊彦は『ロシア的人間』のなかで、つぎのように記している。

 「過去数世紀にあたって、西ヨーロッパの知性的な文化人にとっては、原初的自然からの遊離は何ら自己喪失を意味しなかった。逆にそれは人間の自己確立を意味した。本源的に非合理的な自然の混沌(カオス)を一歩ずつ征服して次第に明るい光と理性の秩序(コスモス)に転じて行くこと、そこにこそ人間の本分が在るのではないか。ロシア人はそれとは違う。彼にとっては原初的自然性からの離脱は自己喪失を意味し、人間失格を意味する。ロシア人はロシアの自然、ロシアの黒土と血のつながりがある。それがなければ、もうロシア人でも何でもないのだ。西欧的文化に対するロシア人の根強い反逆はそこから来る。文化の必要をひと一倍敏感に感じ、文化を切望しながら、しかも同時にそれを憎悪しそれに反逆せずにはいられない、この態度はロシア独特のものである。こういう国では西欧的な文化やヒューマニズムは人々に幸福をもたらすことはできない。」

 このロシア人独特の感性は、涙も凍るようなシベリアの極寒に、荒れすさぶ吹雪のただなかでも我を忘れて踊り、歌うロシア人特有の生の歓喜によってもたらされるのであり、それは「悪霊に憑かれた人の猛烈な忘我陶酔を憶わせる」と井筒はいう。

 ゆえに、ロシア人のこの歓喜は明るいものではなく、異様に暗い。「ロシア的人間の歓喜は大自然の生の歓喜であり、その怒りは大自然そのものの怒り、その憂鬱は大自然そのものの憂鬱なのである」ということになる。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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