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沖縄の米軍基地から漏れ出す「永遠の化学物質」

米国内では至上命題と位置付けられているのに、沖縄では放置されている環境汚染(上)

島袋夏子 琉球朝日放送記者

 去年11月、アメリカで公開された映画「ダークウォーターズ」。

 アメコミ映画「アベンジャーズ」シリーズに出演していたマーク・ラファロが主演を務め、アン・ハサウェイ、ティム・ロビンスなど、名だたるハリウッドスターが脇を固める話題作だ。

 テーマとなっているのは、1990年代後半にアメリカ・ウェストバージニア州で実際に起きたピーフォア(PFOA)という有機フッ素化合物による環境汚染事件。農場で相次いだ牛の不審死に端を発し、真相究明に乗り出す実在の弁護士ロバート・ビロットと大企業デュポンとの闘いの日々が描かれている。

 アメリカでは今、このピーフォアなどによる水の汚染が深刻だ。

 ミシガン州では廃棄物処分場に捨てられたピーフォアで地下水が汚染された。また、学校の水が飲めなくなり、子どもたちにペットボトル入りの水を配っている地域もある。

 だがここで述べたいのは、この問題が対岸の火事ではないということだ。

 2016年1月、沖縄県企業局は沖縄本島中部にある北谷(ちゃたん)浄水場の取水源が、ピーフォス(PFOS)やピーフォアと呼ばれる有機フッ素化合物に汚染されていると発表した。影響を受けていたのは、7つの市町村の約45万人にも上る。

 しかし対策を講じようにも、そこにはまた大きな壁が立ちはだかっていた。汚染源は「アメリカ軍基地」の中にあるとみられていたのだ。

 アメリカ軍基地は、ブラックボックスだ。企業局の会見から4年が経った今も、責任を認めていない。

 沖縄県も、いや、日本政府も、自分たちの土地で起きている問題にもかかわらず、アメリカ軍基地内に入って調査することができず、汚染を食い止めることもできない。

 今もずっと、取水源の汚染は続いているのだ。

PFOS含有泡消火剤の漏出(嘉手納基地) 提供:ジョン・ミッチェル氏

永遠の化学物質(フォーエバーケミカル)

 ピーフォス(PFOS)、ピーフォア(PFOA)とは、どんなものなのか。

 撥水性や撥油性が高く、フッ素樹脂加工のフライパンや、ファストフードの包み紙、電子レンジ調理用ポップコーンの袋、絨毯、衣類、そして半導体の部品など、私たちの生活のあらゆる場面で多用されている。

 だが一度体内に取り込まれると分解されにくく、蓄積されてしまう。そのため「フォーエバーケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれている。

 国内外の研究では、肝臓疾患や、コレステロール値の上昇、妊婦の高血圧、低体重児出産などの可能性が考えられている。

 また、ピーフォスについては2009年、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)で、将来的な廃絶に取り組んでいくことが決定された。

 国内では2010年、化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)で、半導体など不可欠用途以外での製造や輸入が禁止されている。

 一方、ピーフォアについては、世界保健機関(WHO)の外部組織である国際がん研究機関(IARC)が、動物に発がんの恐れがあると指摘している。近く国内でも規制される見通しだ。

 しかしいつ、どこで、そんな有害とされる化合物が取水源に入り込んだのか。

 沖縄県企業局が汚染源を「アメリカ軍基地内」だと考えたのは、取水源となっている河川や井戸群で実施した水質調査の結果からだった。

汚染源はアメリカ軍基地の中

 実は、日本国内にはまだピーフォス、ピーフォアに関する飲料水の規制基準が定められていない。だから沖縄県は、アメリカ環境保護局(EPA)が定めている、飲料水の健康勧告値を参考にしている。

 アメリカでは飲料水1リットルあたりに含まれるピーフォスとピーフォアの合計を70ナノグラム(ナノは10億分の1)以下と設定している。では、7市町村45万人に関わる取水源はどうなっているのか見ていきたい。

取水源の位置とピーフォス/ピーフォアの最大値

 特にピーフォス、ピーフォアの濃度が高かったのが、アメリカ軍嘉手納基地内の滑走路脇を流れる大工廻川(だくじゃくがわ・地図右)だった。

嘉手納基地のフェンス沿いを流れる大工廻川 提供:琉球朝日放送

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