メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

トランプ「アメリカ・ファースト」の起源

プロローグ リンドバーグの影

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

第二次世界大戦前夜

 1936年、リンドバーグはベルリンの米国大使館員から、ナチス・ドイツの航空戦力の情報収集の協力を依頼される。ドイツは前年にベルサイユ条約を破棄する再軍備宣言を行い、空軍創設を正式に表明していた。

 リンドバーグは空軍総司令官のゲーリングに特別の許可をもらい、ドイツ空軍部隊や工場、軍事基地などを視察。その結果、「(ドイツは)欧州のどの国よりも速い戦闘機を生産できる。米国よりも速い戦闘機を生産できる可能性もある」と結論づける(Charles Lindbergh House and Museum. “America First and WWII.”

拡大大阪、木津川飛行場に到着したリンドバーグ=1931年9月13日

 欧州では第一世界大戦の戦勝国英仏両国と、領土拡大への野心を隠さないヒトラー率いるドイツとの間で軍事的な緊張が高まり、欧州大戦が再び始まる兆しが日増しに強まっていた。リンドバーグはその後もたびたびドイツ国内の飛行機工場を訪れ、最新鋭の爆撃機など視察。ナチス側には米国社会に影響力のあるリンドバーグを通じてドイツの航空戦力を積極的に公開することで米側の参戦を思いとどまらせる意図があったとみられる。

 リンドバーグは1938年、ゲーリング元帥から航空機の発展に寄与したとしてナチス・ドイツの最高勲章の一つである鷲十字章を直接授与された。

 リンドバーグは欧州大戦が再び起きれば、自身が直接目にした圧倒的に優れた航空戦力をもつドイツが戦争に勝つと固く信じていた。1939年に米国に帰国すると、米国が欧州での戦争に介入しないように訴え、孤立主義者としての主張を強めていく。そして、米国内で同じように非介入主義を訴えていた「アメリカ・ファースト委員会」に加わった。

 アメリカ・ファースト委員会は1940年、イエール大の学生を中心に結成され、政財界の指導者らもメンバーになるなど、80万人超の会員を抱える保守系の政治団体だった。

 民主党のルーズベルト政権は戦争介入を狙っていると批判し、米国の参戦を期待する英国への軍事援助に反対。国民的英雄であるリンドバーグは加入後すぐに同委員会の代弁者となり、全米各地を遊説して回ることになる。

 当時の米国は第一次世界大戦の後遺症を引きずって厭戦気分が強く、世論調査は戦争反対が80%を超え、同委員会の訴える非介入主義は世論の動向に沿ったものといえた。ただし、自国の利益を最優先に訴えるその主張は、時に排外主義と結びつく。アメリカ・ファースト委員会に不気味な影を落としたのが、同委員会の抱える反ユダヤ主義的な価値観だった。

 リンドバーグは1941年9月、遊説先のアイオワ州デモインで「だれが戦争の扇動者か?」と題した講演を行い、ルーズベルト政権、英国に加え、「ユダヤ人という人種」が米国の参戦を望んでいる、と訴えた。

 ナチス・ドイツから厳しい迫害を受けるユダヤ人の「人種」に言及したデモイン演説は米国内で大きな非難を呼び、リンドバーグは「反ユダヤ主義者」「親ナチ主義者」と非難されることになる。

 リンドバーグはもともと反ユダヤ主義の人種差別的な思考を持っていた。第二次世界大戦開戦直前の日記を読むと、次のような記述がたびたびあらわれる。

ユダヤ人にドイツから出て行って欲しくないと考えるドイツ人は一人もいなかった。彼らによれば、ユダヤ人は前大戦後の内部崩壊や革命に大きな責任があったというのである。戦後のインフレ時代に、ユダヤ人はベルリンなど大都市にある財産の大部分を掌中に収め――一番よい邸宅に住み、最高の自動車に乗り、最も美しいドイツ娘をわがものにしたといわれる 。(リンドバーグ,チャールズ・A(新庄哲夫訳)(2016)『リンドバーグ第二次世界大戦日記 上』角川ソフィア文庫,124)

 リンドバーグはナチス幹部らと交流を深めた結果、反ユダヤ主義的な考え方に染まった可能性が高い。ナチス・ドイツによる600万人のユダヤ人の大量殺戮が明るみになった今、リンドバーグにとって消えることのない汚点である。

 リンドバーグのデモイン演説から3カ月後の1941年12月7日、日本軍が真珠湾を攻撃し、米国は第二次世界大戦に参戦を決定。その3日後、アメリカ・ファースト委員会は解散した。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

園田耕司の記事

もっと見る