いま緊急事態条項を持ち出す改憲派の不見識。中国恐怖症が透ける米欧の世論
2020年02月19日
新型コロナウイルスによる新型肺炎の症例が、国内でも次々と報告されるようになりました。政府が開催した専門家会議では、いまだ「国内流行」の段階にはないという見解が示されましたが、臨床現場にいる医師もアドバイザーとして会議に参加しており、患者はもっと増えているという意見も出されました。
現段階をどう見るかは、用語の定義上のテクニカルな問題であって、いずれは国内流行の段階に移行することを想定した対策が検討されています。
新型コロナウイルスの報道が出た当初、国際社会は経済へのダメージやパンデミックの恐怖がもたらすパニックに見舞われました。ところが、株式市場は正直なものです。強い懸念が和らいでからは大きく株価を上げ、この問題をはやばやと“消化”してしまいました。医療現場がこれから多くの患者に対応しなければいけない事実は変わらないのですが、少なくとも新型コロナウイルスに関する不確実性に基づく強い懸念は消えたということでしょう。
他方で、報道は相変わらず過熱しており、寝ても覚めても新型コロナウイルスのニュースばかりです。日本では新型コロナウイルスの話題を取り上げると視聴率が良いということが分かっていますが、日本のみならず世界でもダイヤモンド・プリンセス号が話題になるなど、国際的にメディアや人びとの関心を惹きつけているようです。
人間は未知のリスクには感応性が強く、ときに極端に反応する一方で、既知のリスクに対しては感度が鈍いことが知られています。交通事故やインフルエンザのリスクには鈍い一方で、新型コロナウイルス発生のようなリスクに対しては、脅威を極度に高く見積もりがちです。
近年、パンデミックや金融危機などの世界的影響を及ぼすリスクが注目を浴び始めたのは、冷戦や核戦争といった伝統的な脅威よりも、意図せざる偶発的な脅威に目を向ける学派が生じたからです。典型的には、チェルノブイリ事故のような、誰しもが被害を受けうる事例が想定されます。冷戦とは関係なしに、いったんチェルノブイリ原発で事故が起これば、ソ連から西側諸国にまで影響が及びます。
リスク研究を通じてこうしたリスクを可視化すれば、グローバルな問題について各国の協力が模索できると考えられました。しかし、ことはそれほど簡単ではなかった。ひとたびリスクの認識が広まれば、メディアや世論が不断に干渉しはじめるからです。
たとえば今回、WHO(世界保健機関)が新型肺炎に関する緊急事態宣言を出したことには、医療体制が整わない国を支援するために国際協力を呼び掛ける目的がありましたが、各国の報道を見ると、緊急事態宣言は通常の法的手続きを踏み越えるための根拠として利用されています。
「緊急時」「非常時」といった認識は、実は使い勝手がいい。それによって、従来の政治的な手続きを飛び越えたり、通常の法解釈の範囲を超えた行為が正当化されたりするからです。これを政治学では「安全保障化」と呼びます。
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