花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日本にポピュリズムの不安はないか
2月5日、ドイツの旧東独チューリンゲン州で突如成立した政権を目の当たりにし、各国は驚きを禁じ得なかった。極右「ドイツのための選択肢(AfD)」支持による政権だったからだ。とうとうドイツもここまで来たか。それは欧州全域に蔓延するポピュリズムの嵐が、ついにドイツをも覆うことを意味する。この政権自体は非難が集中し、新しい州知事はたった1日で辞任に追い込まれたが、それでも各国のショックが消えることはない。いったい今、我々はどういう世界に住んでいるのか。
チューリンゲン州では2019年10月に州選挙が行われた後、ずっと連立が模索されてきた。これまで州首相選出に向け2回投票したが決まらず、今回3回目の投票でようやく新しい州首相の選出となった。この州でこれまで政権の座にあったのは旧東独共産党の流れを汲む左派党だ。当初、左派党政権誕生と聞いて誰もが尻込みしたが、5年経ってみるとボド・ラメロウ州首相の評判は上々だ。今回も選挙で第一党になった左派党が連立を成立させるものと誰もが思った。
ところがこれがうまくいかない。3回目の投票で突如出てきたのが、自由民主党(FDP)のトーマス・ケメリッヒ氏だ。ところが、FDPは先の選挙で5%をわずか73票上回るだけのギリギリのところで議席を獲得した。そのケメリッヒ氏が、と誰もが思ったが、裏に第三党になったキリスト教民主同盟(CDU)の支持があった。そればかりか、あろうことか第二党のAfDも支持していたのだ。その結果、わずか5名を擁するFDPのケメリッヒ氏が議会総数90名の内、48名の支持を獲得した。ラメロウ氏の側は42名だった。
この結果に、ドイツ国内は騒然となった。極右と組むことはない、というのがドイツの全政党の立場だ。今回、州レベルのこととはいえ政党の立場に変わりはない。それが、崩された。社会民主党(SPD)は「極右政党を政権から遠ざけるとの戦後ドイツのタブーがCDUとFDPにより破られた」と強い口調で非難した。より深刻なのが、メルケル首相の政党CDUだ。党首のクランプ・カレンバウアー氏は、チューリンゲン州のCDU支部が中央の方針に背いたとしてこれを強く叱責、更にその後10日、同氏は、責任を取ってCDU党首を辞任する旨、また、2021年選挙の首相候補にも立候補しない旨明らかにした。同氏はメルケル首相後任と目された人物だ。ケメリッヒ氏は、自らの選出に際しAfDと密約を結んだ事実はないとし、また、AfDと連立を組むつもりもないとして必死に弁明に努めたが、非難が鳴りやむことはなく、結局、わずか1日で首相辞任に追い込まれた。今後、改めて州選挙が予定されている。