日本にポピュリズムの不安はないか
2020年02月21日
2月5日、ドイツの旧東独チューリンゲン州で突如成立した政権を目の当たりにし、各国は驚きを禁じ得なかった。極右「ドイツのための選択肢(AfD)」支持による政権だったからだ。とうとうドイツもここまで来たか。それは欧州全域に蔓延するポピュリズムの嵐が、ついにドイツをも覆うことを意味する。この政権自体は非難が集中し、新しい州知事はたった1日で辞任に追い込まれたが、それでも各国のショックが消えることはない。いったい今、我々はどういう世界に住んでいるのか。
チューリンゲン州では2019年10月に州選挙が行われた後、ずっと連立が模索されてきた。これまで州首相選出に向け2回投票したが決まらず、今回3回目の投票でようやく新しい州首相の選出となった。この州でこれまで政権の座にあったのは旧東独共産党の流れを汲む左派党だ。当初、左派党政権誕生と聞いて誰もが尻込みしたが、5年経ってみるとボド・ラメロウ州首相の評判は上々だ。今回も選挙で第一党になった左派党が連立を成立させるものと誰もが思った。
ところがこれがうまくいかない。3回目の投票で突如出てきたのが、自由民主党(FDP)のトーマス・ケメリッヒ氏だ。ところが、FDPは先の選挙で5%をわずか73票上回るだけのギリギリのところで議席を獲得した。そのケメリッヒ氏が、と誰もが思ったが、裏に第三党になったキリスト教民主同盟(CDU)の支持があった。そればかりか、あろうことか第二党のAfDも支持していたのだ。その結果、わずか5名を擁するFDPのケメリッヒ氏が議会総数90名の内、48名の支持を獲得した。ラメロウ氏の側は42名だった。
さて、この一件をどう見るか。2点が重要だ。ポピュリズムがドイツの(州レベルにしても)政権形成にまで及んだこと、及び、ドイツの政治が多党分立になっていることだ。
ポピュリズムの勢いは既に欧州全域にわたり、中には政権を担っているところもある。それでも、今回の件が人々の驚きを呼んだのは、あのドイツでもか、ということだ。言うまでもない、ドイツにはナチスの過去がある。極右には殊の外忌避感があった。そのタブーが破られたのが2017年の選挙で、AfDは一気に89議席を獲得、第三党に躍進した。背景に2015年の難民危機があった。それでも、政権形成への参画となれば次元が異なる。あのドイツですら極右が政治の一角を決める時代になったか、との驚きだ。ちなみに、連邦制のドイツでは、州は文化、教育、警察等絶大な権限を持つ。上院は州代表で構成されるのでこの意味でも州は日本と比べようもない大きな存在だ。
ポピュリズムについては、この欄で何回も論じたので繰り返しは避けるが、(最近では、拙稿「ポーランド国民がなめる「アメ」の味」参照)、一言でいえば、社会に「不満」と「不安」が蔓延しているということだ。ポピュリストがそれを躍進のバネに利用している。不満の最たるものは格差であり、一方でいい目を見るエリートが幅を利かしているのに、自分達は底辺に滞留しているとの「見捨てられた」思いが煮えたぎる。冷戦後のグローバル化で一気にこの流れが進んだこともあり、反グローバル化、反エスタブリッシュメント、反EUの主張につながっていく。
不安は、老後はどうなってしまうのか、というのが最も深刻なものだが、併せて、多くの移民難民が押し寄せ、自分たちの国が自分たちのものでなくなってしまう、との危機感もある。文化やアイデンティティーの問題だ。
ポピュリズムの蔓延は、単に一部の扇動者が引き起こした一時的なものではない。扇動者は社会の変化を鋭敏に嗅ぎ取った。底流に潜む「社会の変化」こそがポピュリズム現象の本質だ。そうでなければこれだけ世界中に蔓延するわけがない。
政党の多党化分立も欧州全域にみられる。政党がバラバラになり、小さなものが併存する現象だ。
かつてドイツは、中道左派と中道右派の二大政党が政治の中心にあった。これに小政党FDPが加わり連立をつくった。「二大政党が崩れ行く過程」はドイツでは3段階のプロセスをたどった。いずれも社会の大きな変化が背景にある。
第一が、戦後の既存政治に疑問が投げかけられた時だ。「68年世代」といわれる若者が既存政治に反旗を翻した。米国ではベトナム反戦やヒッピー文化が席巻した。これがドイツでは1980年、緑の党結党に結実する。緑の党は議会に進出すると飼いならされた猫のようにおとなしくなり体制化していった。
第二は、冷戦終結だ。旧東独が取り込まれドイツの政治体制に根本的な修正が加えられた。SPD左派と旧東独共産党が一緒になり左派党を形成する。SPDはその後衰退の一途をたどり、
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