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ダイヤモンド・プリンセス号。岩田教授の衝撃動画と問題の本質

問題は「医学」ではなく「マネジメント」。方針を示し責任を引き受けるトップの不在だ

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

 神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授が2月19日、「ダイヤモンドプリンセスはCOVID-19製造機 なぜ船に入って一日で追い出されたのか」という動画をYouTubeに投稿したところ(現在は削除されていますが、書き起こしが残っています。)、国内外に大きな反響を呼び、これに対して元厚生省技官で、ダイヤモンドプリンセス号内で実務に携わっていた沖縄県立中部病院感染症内科の高山義浩医師が反論し(高山氏のFB)、さらに大きな論争を巻き起こしました。

 この論争のさなか、ダイヤモンド・プリンセス号の検疫の現場責任者である橋本岳厚生労働副大臣が、反論をツイートしたのち削除したことで(参照)、論争はさらに加熱したものになりました。

 岩田教授の、おそらくは純粋な告発に端を発したこの論争は、期せずしてダイヤモンド・プリンセス号の検疫をはじめとする新型コロナウイルス感染症対策、そして現在の日本政府の問題点を端的にあぶり出していると思われますので、本稿ではこの点を論じたいと思います。

岩田健太郎・神戸大教授が公開した動画。大型クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号内に入った感想を語っている=ユーチューブから

岩田教授と高山医師の主張の相違点

 まずもって、「論争」は展開されていたものの、極めて高名かつ優秀な医師である岩田教授、高山医師の二人が主張した、ダイヤモンド・プリンセス号における医学的観点からの「やるべき対策」と「現状の評価」は、実のところほとんど違いはありません。

沖縄県立中部病院の高山義浩医師=2020年1月、沖縄県うるま市
 「やるべき対策」としては、二人とも、
①感染の拡大防止には厳格なゾーニングが必須、
②患者の発生を分析するため、感染者、非感染者すべての乗客の体温の履歴等をとり、エピカーブ(流行曲線)を作成する必要がある、
を挙げています。

 また、「現状の評価」についても、程度の差こそあれ、ともに、
①ゾーニングは不完全
②エピカーブのデータ収集も不完全
③船内に対策本部が設けられ、船内で事務作業を行っているのは移転すべき(これは岩田教授のみの主張ですが、高山医師も否定していません)
としています。

 とすれば、二人の意見の差はどこにあったのか。実は、「医学」というより「マネジメント」、すなわち、「どうすればそれをできたか」という問題にありました。

 この点に関する二人の意見を私見で要約すると、岩田教授は「専門家が忌憚なく意見を言うべきだ=事務(政治)がそれに応ずることで厳格なゾーニングを実現できた」と考え、「マネジメントの不在」を糾弾しています。一方、高山医師は「専門家は事務(政治)に分かるように説明すべきだ=事務(政治)がわかるところが実現できるゾーニングの精一杯だ」として、「現場の努力」を評価するものでした。

 この点については、二人の意見はほとんど真逆と言えると思います。

「封じ込め路線」と「共存路線」

 医学的意見では一致する二人の医師の見解が、「どうすればそれをできたか」という「マネジメント」の問題においては、どうしてこれほど異なったのでしょうか。また、二人の医師の間でこの様な意見の相違を生んだダイヤモンド・プリンセス号の中では、何が起こっていたのでしょうか。

 もちろん、私はダイヤモンド・プリンセス号の中にいるわけでも、厚生労働省の中にいるわけでもありません。しかしが、二人の発言と、政府の公式発表や報道、そして検疫の現場責任者である橋本副大臣のツイートから、相当程度に推測できると思われますので、あくまで推測という前提で、考えてみたい思います。

 第一に「新型コロナウイルス感染症」に対する対策には、
①治療法のない未知の病気で、いったんアウトブレークしたら対応が困難だから可能な限り感染を封じ込めようという「封じ込め路線」、
②純粋に「感染症」として見た時、「ものすごく怖い」ものではないうえ、不顕性感染が多く、いずれ社会全体に伝播するのは止むを得ないという「共存路線」、
という、相反する二つの路線があります。

 政府は明言していませんが、

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