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新型コロナウイルスから身を守る「エゴイズム」の権利

三島憲一 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

くたびれ儲けで結構という原則

 だが、行政機構というのは、どこでもできるだけトーンを落として発表するか、場合によれば隠すものらしい。武漢の当局もそうだったらしいが、思い出されるのは二つの文学作品だ。

 ひとつは、トーマス・マンの『ヴェニスに死す』(1912年)。ヴェニスの高級ホテルに滞在しているドイツ人の老作家は、市内の雰囲気がなんとなくおかしいことに気づく。あちこちで消毒がなされている。しかし、公式報道はない。コレラが流行っていたのだ。そのうち、同じホテルに滞在しているポーランド人一家の美少年に片想いをするあまり、滞在が長引き、結局具合が悪くなり息絶えてしまう話だ。もちろん、小説の主眼は退廃と没落の匂いが立ち込める典雅な水の都での美少年への愛だが、前提は、観光客の帰国や激減による経済的ダメージを恐れる市当局の秘密主義だ。

 カミュの『ペスト』(1947年)も同じだ。

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筆者

三島憲一

三島憲一(みしま・けんいち) 大阪大学名誉教授(ドイツ哲学、現代ドイツ政治)

大阪大学名誉教授。博士。1942年生まれ。専攻はドイツ哲学、現代ドイツ政治の思想史的検討。著書に『ニーチェ以後 思想史の呪縛を超えて』『現代ドイツ 統一後の知的軌跡』『戦後ドイツ その知的歴史』、訳書にユルゲン・ハーバーマス『近代未完のプロジェクト』など。1987年、フィリップ・フランツ・フォン・ジーボルト賞受賞、2001年、オイゲン・ウント・イルゼ・ザイボルト賞受賞。

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