検察官の定年延長はできないとする従来の法解釈を勝手に変更した政権に吹く強烈な逆風
2020年02月25日
一人の検事の定年延長が政権を揺るがす一大事となっている。
東京高等検察庁の黒川弘務検事長。安倍政権は1月31日の閣議で、2月に63歳となる黒川氏の定年を8月までの半年間、延長することを決めた。検察庁法では、検事総長の定年が65歳、高検検事長を含む検事の定年を63歳と定めており、定年が延長されたのは初めてのことだ。
たった一件の人事案件だが、この閣議決定が世論や野党の猛反発を浴び、政権に強い逆風になるとは、安倍晋三首相も側近の菅義偉官房長官も考えが及ばなかったに違いない。この定年延長問題が映し出す安倍政権の末期現象を報告する。
この問題には経緯がある。まず、黒川検事長の経歴から見てみよう。1983年、検事任官。法務省秘書課長などを経て、民主党政権下の2011年に官房長。同政権で官房長官、法相などを歴任した仙谷由人氏(故人)は、黒川氏が与野党の国会議員らへの根回しを進める「調整力」を評価していた。
2012年に第2次安倍政権が発足した後も、黒川氏は官房長を続投。アベノミクスの柱である外国人観光客受け入れのための入国規制緩和で、関係省庁との調整や与党議員への根回しなどを進めた。共謀罪法案と呼ばれた組織犯罪処罰法改正案の成立にも奔走した。
菅官房長官は黒川氏を高く評価。官房長を異例の5年間も務めさせたうえ、16年には法務事務次官に抜擢した。こうした経緯から、法務省内事情に詳しい自民党ベテラン議員は黒川氏を「官邸の門番」と評する。
黒川氏が官房長や事務次官として、森友学園をめぐる公文書改ざん事件を不起訴処分にするなど、検察の事件捜査にも影響力を及ぼしたという指摘もあるが、確定的な情報はない。
稲田伸夫検事総長が法務事務次官だった当時、林氏を後任に推したものの、安倍官邸の意向で林氏は刑事局長に留め置かれ、黒川氏が次官に就いたといわれる。そして、林氏は18年1月に名古屋高検に、黒川氏は19年1月に東京高検に、それぞれ転出した。
法務・検察の人事序列は、トップが検事総長、次いで東京高検検事長、法務事務次官、大阪高検検事長、名古屋高検検事長などと続く。
安倍政権がアベノミクスなどの政策に貢献した黒川氏を検事総長に起用しようと考えていたのは間違いない。だが、そこに厚い壁として立ちはだかったのが検察庁法だった。
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