「危機管理」が揺らぐ安倍政権。不安の悪循環から脱するため、過去から何を学ぶか
2020年02月29日
新型コロナウイルスの感染拡大への対応をめぐり、安倍晋三政権がこの7年余の長期政権下でかつてないほどの本質的な批判にさらされている。
中国からの入国者の規制から、感染者が大量発生した大型クルーズ船に対する検査・隔離、あるいは感染防止のための暮らしの規制に関する指針づくりに至るまで、実効性のある初動対応を怠ったとの批判である。
官邸主導が極まったことの反作用といえようか、菅義偉官房長官ら内閣官房に懸案処理が集中し、厚生労働省をはじめ現場との結節点に立つ組織の現実対応が後手に回る状況も否めない。
その結果、危機がいつまでどこまで続くのか、国民が先を見通せず、不安を募らせるといった悪循環に陥っている。
事実、たとえば日本経済新聞社の世論調査によれば、初動の屋内避難指示が批判を浴びた2016年の熊本震災の直後、政府の対応を「評価する」が53%で「評価しない」が35%だったのに対して、今回の新型肺炎に関しては、「評価する」40%、「評価しない」50%と逆転する。さらに熊本震災の場合は、内閣支持率を押し上げる効果がみられたが、今回はそれも真逆である。
つまり、長期政権を下支えしてきた「危機管理」の確かさ自体が揺らいでいるのだ。
くわえて、これも政権が選択した消費増税の影響もあり、昨年10〜12月期のGDP(国内総生産)は予想を超えるマイナスを記録。さらに、国際市場も軒並み株価を下げ、もうひとつの身上だった「アベノミクス」も揺らぐ。「桜を見る会」や検察の定年延長問題をめぐっても、国会で疑惑は晴らされることはなく、ここにきて長期政権の歪(ひず)みが一斉に噴き出した観がある。
このままでは、悲願の憲法改正はもちろんのこと、自民党総裁「4選」を含め、首相の政権戦略は根底から覆ることになろう。だいいち、これまで状況をリセットし政権をテコ入れして来た衆院解散・総選挙さえも、自在にその時期を選ぶ能力を失ってしまうに違いない。
もっとも直近の世論調査を見れば、内閣支持率は急落するものの、立憲民主党など野党の政党支持率は一向に上がる様子はない。世論は無党派層の増大という「踊り場」に依然としてとどまる。
どの政党の誰が、この政権に代わって新たな将来への道筋を示し得るか、安倍政権が立ち直る可能性はないのか――。世論は全体状況を冷静に見極めようとしているように見える。政権の打倒や擁護といった極端な政局論は別にして、なにより世論はいま、景気と深く連動し始めた新型肺炎危機への不安を除去する確かな方策を希求しているはずだからだ。
ならば、この局面で為政者に必要な心構えとは何か、それを見定める必要があろう。
そのための教材、そして教訓が、近年の日本にはある。ひとつは1995年の阪神大震災だ。
同年1月17日午前、地震発生から数時間後の首相官邸。社会党の村山富市氏を首相に担いだ自社さ連立政権にあって官邸を取り仕切ったのは、2人の官房副長官だった。事務方のトップである石原信雄氏と、新党さきがけの園田博之衆院議員(故人)だ。2人には一昨年、平成政治史を振り返る企画でインタビューをした(詳細は論座「二人の官房副長官が語る平成政治史」で読める)。想定外の危機に臨んで為政者が何に悩み、いかに判断したかがありありと浮かぶ、生々しい回顧談である。
石原氏は証言する。
「被災地で消防は現地にいるから救助活動がテレビに映るが、自衛隊が全然映らなかった。私の部屋にも電話で随分抗議が来た。村山さん(富市首相)が社会党の左派出身だから自衛隊嫌いで出してないんじゃないかと。そんなことないよとだいぶ言ったんですけど。村山さんはとにかく何をさておいても自衛隊にやってもらわにゃいかんというので、私は防衛庁に電話した。防衛庁で中部方面 総監部から姫路駐屯地の部隊に命じて出動させたが、かなり時間がかかった。神戸まではかなり距離があり、近づくと道路が寸断状態で車両が止まったりしてな かなか到着できなかった」
一方、園田氏の証言はこうだ。
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