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新型コロナ感染を判定するPCR検査は「拡大すべきではない」の不条理

非科学的な医療関係者の消極論。情報伝達が不徹底だった政府がやるべきことは

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

約15分でPCR検査ができる検査機器。右側中央部に検体を入れて検査する

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、「発熱が続いたので検査したところ、インフルエンザなど他の病気ではないとされ、症状からすると新型コロナの感染が疑われる患者が、保健所で新型コロナウイルスのPCR検査を拒否された」事例(毎日新聞デジタル2月26日)が報道され、SNS上で拡散しています。

 この問題を含め、新型コロナウイルスに対するPCR検査について政府は当初、検査数が2月26日現在で累計1846件、1日100件程度と発表していましたが(厚生労働省HP)、実は都道府県の検査数を把握しておらず、最終的には2月18~24日間の7日間で計約6300件、1日平均約900件、行われていたと加藤勝信厚労大臣が答弁するという混乱を見せました。

 一方、これもSNS上で、特に医療関係者から、PCR検査は新型コロナウイルスに対する検査としては有効でなく、「PCR検査の対象を拡大すべきではない」との意見が広がっていますので、この点について論じたいと思います。

分かりにくい政府の検査の新基準

 まず、国が定める検査の基準を見てみます。2月17日の厚生労働大臣の会見(参照)で、従来ものから緩和されましたが、これについて厚生労働省から都道府県担当者に出された事務連絡(依頼)は極めて分かりづらい書き方がされています。

 具体的には、従来の基準である

(1)発熱または咳などの呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する者であって、新型コロナウイルス感染症であると確定したものと濃厚接触があるもの、
(2)37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、発症前 14 日以内に中国湖北省に渡航又は居住していたもの
(3)37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、発症前 14 日以内に中国湖北省に渡航又は居住していたものと濃厚接触があるもの
(4)発熱、呼吸器症状その他感染症を疑われるような症状のうち、医師が一般に認められている医学的知見に基づき、集中治療その他これに準ずるものが必要であり、かつ、直ちに特定の感染症と診断することができないと判断し(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 14 条第1項に規定する厚生労働省令で定める疑似症に相当)、新型コロナウイルス感染症の鑑別を要したもの

を提示したうえで、

・ 37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、入院を要する肺炎が疑われる者(特に 高齢者又は基礎疾患があるものについては、積極的に考慮する)
・ 症状や新型コロナウイルス感染症患者の接触歴の有無など医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う者
・ 新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった者であって、その治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に、医師が総合的 に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う者

を追加しています。

 ところが、おそらく多くの保健所・医療機関が参照している環境衛生学会の「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド」は従前の基準のままで、発熱が継続していても、「渡航歴・若しくは濃厚接触歴」がなく、かつ「集中治療」もしくはこれに準ずる治療が必要である、とまでは判断されていない患者さんは、PCR検査が実施されないことになっています。

 おそらくは、この新旧基準の齟齬(そご)と、政府の新基準の書き方の分かりづらさもあって、現場では事実上、旧基準に基づいた運用がなされていたことが、報道された「PCR検査拒否例」が生じた直接的な原因ではないかと考えられます。

検査消極論は非科学的な主張

 ところが、こうした「政府の情報伝達の不徹底」はあまり注目されることなく、SNS上では、「PCR検査の対象は拡大すべきではない」という議論が、主に医療関係者を中心に強力に巻き起こっています。

 この議論においては、室月淳医師による、臨床検査の「感度」「特異度」からPCR検査の限界を論じた記事などが広く読まれ、様々な議論において、「PCR検査の対象は拡大すべきではない」とする根拠として用いられています。

 もちろん、この記事に書かれている「PCR検査の感度を90%、特異度を90%とすると、感染率2%の集団において陽性的中率は15%であり、この集団に対してPCR検査を行うと、『陽性』と診断された人のうち本当の感染者は15%に過ぎず、医療リソースが無駄遣いされてしまう」というのは、医学以前の単純な数学的事実であり、議論の余地はありません。

 その一方で、「感染率2%」は市中を普通に歩いている人にPCR検査を行うときに用いるべき数字で、たとえば「38度台の熱が4日間継続した人」の集団における感染割合ではありません。この集団における感染割合が仮に30%であるなら、市中の感染率が2%であっても、この集団に対するPCR検査の陽性的中率は80%に達し、PCR検査を正当化するのに十分なものである様に見えます。

 そして、当然のことながら、市中の感染率が上がり、「38度台の熱が4日間継続した人」の集団における感染割合も上昇すれば、この陽性的中率も当然アップします。

 もちろん、「『38度台の熱が4日間継続した人』の集団における感染割合30%」は、私が議論のために設定した数字に過ぎません。実際のところ、この数字がどれ程であるかは、今現在の日本において、新型コロナウイルスやインフルエンザをはじめとする感冒の症状を呈する他の疾患の流行状況、臨床経過、重症率等により、確かなデータは、これから収集しない限り、おそらくどこにもありません。

 要するに、現在の厚生労働省の基準が、「ここしかない絶対の線引き」である根拠はどこにもないわけで、事実、ほかならぬ厚生労働省自体が2月17日にその基準を緩和しているのです。

 「すべての人へのPCR検査」が、PCR検査の科学的限界を踏まえていない非科学的な主張だというのはその通りですが、

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