メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

国際情勢を不安定化させかねないドイツ政治の混迷

極右との連携を巡り激震に揺れる与党は安定を取り戻せるか

花田吉隆 元防衛大学校教授

党大会で演説する与党キリスト教民主同盟のクランプカレンバウアー党首=2019年11月22日、ドイツ東部ライプチヒ、野島淳撮影

振り出しに戻ったメルケル首相の後継問題

 いよいよ先行きが不透明になってきた。2月5日のドイツ旧東独、チューリンゲン州を巡る混乱を受け、10日、メルケル首相の与党キリスト教民主同盟(CDU)のアネーグレット・クランプカレンバウアー党首が辞任の意向を表明、併せて、2021年の総選挙に首相候補として立候補するつもりがないことを明らかにした(拙稿「欧州はポピュリズムに多党分立、日本は自民一強」参照)。

 メルケル後継問題が振り出しに戻ってしまった。誰がこの後ドイツの舵取りをしていくのか。2021年まで残留の意向だったメルケル首相は、早期退陣を迫られるのか。ドイツでは極右政党と緑の党の躍進が著しいが、この新たな政治の流れにどう対応していくのか、CDU内の路線闘争も絡み、俄然ドイツ政治に不透明感が漂う。

 米英が頼りにならず、仏は国内不満で政権の権威が傷つけられたままだ。中露はそういう隙を虎視眈々と狙っている。EUがしっかりしないと自由民主主義陣営の足元さえ揺らぎかねない。ドイツだけは、と思っていたが、そのドイツも、今や心もとない限りとなった。成り行き次第では、国際政治全体が揺らぎかねない。

 ことの発端は、チューリンゲン州首相の選出だ。昨年10月の同州選挙で、5%しか獲得しなかった自由民主党(FDP)のトーマス・ケメリッヒ氏が州首相に選出されたが、裏にCDUと極右、ドイツのための選択肢(AfD)の支持があった。これが報じられるや、ドイツ国内は蜂の巣を突いたようになった。よりにもよって極右の支持を求めるとは何事か。特に、与党CDUに対する風当たりが強かった。極右と一緒になってケメリッヒ選出に動いた。極右との連携など、ドイツではタブー中のタブーだ。その一線を与党が越えてしまった。CDUの一地方支部の判断が、ドイツ全体のちゃぶ台をひっくり返してしまった。

 2018年12月、クランプカレンバウアー氏がCDU党首に選出された。同氏自身はドイツ弱小州ザールラントの州首相だった。同州地方選挙で目覚ましい活躍をとげ、それがメルケル首相の目に留まり、メルケル子飼いとして中央に引っ張られた。メルケル首相の下で幹事長を務め、後継として党首に指名された。

 CDU党首は次期首相含みだ。メルケル首相の任期は2021年まで。そこで16年にわたるメルケル時代が終わりその路線を継ぐクランプカレンバウアー党首が次期首相になる。ドイツの進路は定まったかに見えた。それが全てご破算だ。

つまづいた「総総分離」

 メルケル首相はクランプカレンバウアー氏を後継にした時、「総総分離」を決めた。党はクランプカレンバウアー氏が、政府は自分が仕切る。当時、メルケル首相には逆風が吹いていた。2017年の総選挙で、CDUは勝利したものの、その得票は1949年以来最低に落ち込んだ。裏に2015年の難民危機があった。CDUはその嫌な流れを、1年後の2018年10月、バイエルン州とヘッセン州の州選挙で食い止めようとした。しかし、結果はCDUの予想以上の大敗。轟轟たる非難の中、メルケル首相が考え出したのが「党首を辞任する」、しかし「首相には残る」だ。党首の座を明け渡したことによりメルケル批判は収まった。後は、クランプカレンバウアー新党首が育つまで横で見守ればいい。

 ところが、ことはそううまくはいかない。クランプカレンバウアー党首が首相の器でないことが次第に露呈していく。2019年初めのLGBTに関する不適切発言、続いて5月のネット規制に関する不用意発言。一つ一つは大したことのない話だ。しかし、それが積み重なり、次第に同氏を見る国民の目が厳しくなっていく。同氏はリーダーとしてふさわしくないのではないか。チューリンゲン州の一件は、そういう流れの中で起きた。いわば、クランプカレンバウアー党首の息の根を止める最後の一撃だったわけだ。

 クランプカレンバウアー党首は、「総総分離」はうまくいかなかった、と暗に匂わせた。それはそうだろう。首相として脚光を浴びるのは依然メルケル首相だ。その陰で、党首として黙々と党務に励む。その党務だって、実権はメルケル首相が握っている。クランプカレンバウアー党首が思い切りやれるわけがない。

 同氏にとり、悪条件はさらに二つあった。一つは、昨年党首になってから選挙が立て続けに4つもあったことだ。2019年5月の欧州議会選挙と9、10月の3つの地方選だ。そのいずれも、選挙の前からCDUは苦戦が伝えられていた。特に旧東独地域はAfDが強い。当初から地方選挙でCDUが勝利する見込みは薄かったのだ。それでもふたを開ければザクセン州では何とか第一党の座を死守した。クランプカレンバウアー党首は悪条件の中よく戦った。しかし、政治は何と言っても結果だ。前回の2014年に比し7(初めの2州)乃至11(チューリンゲン州)ポイントも失った。同氏の下で2021年の選挙が戦えるのか、との声が広がっていく。

深刻な党内の亀裂

 もう一つは党内の路線対立だ。2017年まで、CDUは選挙を順調に勝ち進んでいった。だから党内の不満は抑えられていたのだが、実はメルケル党首の下、党内の亀裂が深まるばかりだった。CDUは伝統的に保守の政党だ。党内には、キリスト教の信条や家族の価値を重視する党内右派が控える。メルケル党首はそういう中、党の立ち位置を左に持っていった。最低賃金引上げや同性婚容認などがいい例だ。それが奏功し、CDUは、それまでの中道右派に加え、中道左派の有権者にも広くウィングを延ばすこととなった。社会民主党(SPD)との大連立は、そういう中で出来上がった。ところが、

・・・ログインして読む
(残り:約2250文字/本文:約4666文字)