日本人には理解が難しい中東のムスリムの本質
異文化マネジメントの観点から見る平和な宗教と過激な行動の矛盾の原因と将来
酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授
2月23日付朝日新聞デジタル版「イラン選挙、保守強硬派が躍進、米との対立より先鋭化か」は、米国による経済制裁とソレマイニ司令官殺害という二つのプレッシャーでイランが混乱している様子と、保守強硬派が勝利を拍手で祝う西洋的な行為を戒めたこと、の二つが描かれている。
多様なムスリムの世界

Mongkolchon Akesin/shutterstock.com
中東には、親米のアラブ首長国連邦やサウジアラビア等の穏健産油国がある一方、シリア、イラクなど紛争の続く国もある。いずれもアラブ人・イスラム教徒(=イスラム教徒を意味する「ムスリム」という単語があるので、本稿では「ムスリム」と呼ぶ)の国だ。内紛には、国により違いがあるものの、米国、ロシア、イランが介入している。
ただし、1947~73年にかけては、これらアラブ諸国は協力してイスラエルとの四度の中東戦争戦った経験を持つ。また、2001年の9・11テロ以降は、過激派が欧米キリスト教国にテロを行っており、ここでは「ムスリムの国 vs.『欧米キリスト教国+イスラエル』」という図式が復活している。
ちなみに、イランとアフガニスタンはアラブ諸国には属さないもののムスリムの国である。また、イランは、世界で唯一のイスラム教により支配されている国だ。サウジアラビアが厳しいイスラムの戒律に基づく国だと思っている読者が多いかも知れないが、同国はイスラムの教えを基にした法律を厳しくしている国で、イスラム教により国家を支配しているわけではない(例えばサウジアラビアでは女性はベールをかぶる、15歳には結婚する、というようになっているが、イスラム教ではそれは女性の選択に委ねられている)。
日本の技術を活かせるチャンスはあるが……
最近、気候変動の問題が一段とクローズアップされるなか、中東諸国の多くが化石燃料依存型経済から脱却する必要に迫られており、現地への製造業の工場進出やスマートシティ構想の移植などで日本の技術をいかせるチャンスがある。だが、イスラム教と中東のムスリムは、日本人には理解し難い点が少なくないため、関係を深めるのは容易ではないと感じる向きは強いだろう。
本稿では、平和な宗教のはずのイスラム教が、中東において、なぜ、いつから、過激になったのか。過激な人々はどれほどいるのか。また、彼らと付き合う際の注意事項は何かに焦点を当てたい。なお、本稿は、米国人のムスリム(普通の信者とイマム<カトリックの神父のような存在>を含む)、イスラム学者、比較宗教学者、歴史学者などの先生および友人から学んだことと、様々な著書に教えられたことの結果である。