異文化マネジメントの観点から見る平和な宗教と過激な行動の矛盾の原因と将来
2020年03月01日
2月23日付朝日新聞デジタル版「イラン選挙、保守強硬派が躍進、米との対立より先鋭化か」は、米国による経済制裁とソレマイニ司令官殺害という二つのプレッシャーでイランが混乱している様子と、保守強硬派が勝利を拍手で祝う西洋的な行為を戒めたこと、の二つが描かれている。
中東には、親米のアラブ首長国連邦やサウジアラビア等の穏健産油国がある一方、シリア、イラクなど紛争の続く国もある。いずれもアラブ人・イスラム教徒(=イスラム教徒を意味する「ムスリム」という単語があるので、本稿では「ムスリム」と呼ぶ)の国だ。内紛には、国により違いがあるものの、米国、ロシア、イランが介入している。
ただし、1947~73年にかけては、これらアラブ諸国は協力してイスラエルとの四度の中東戦争戦った経験を持つ。また、2001年の9・11テロ以降は、過激派が欧米キリスト教国にテロを行っており、ここでは「ムスリムの国 vs.『欧米キリスト教国+イスラエル』」という図式が復活している。
ちなみに、イランとアフガニスタンはアラブ諸国には属さないもののムスリムの国である。また、イランは、世界で唯一のイスラム教により支配されている国だ。サウジアラビアが厳しいイスラムの戒律に基づく国だと思っている読者が多いかも知れないが、同国はイスラムの教えを基にした法律を厳しくしている国で、イスラム教により国家を支配しているわけではない(例えばサウジアラビアでは女性はベールをかぶる、15歳には結婚する、というようになっているが、イスラム教ではそれは女性の選択に委ねられている)。
最近、気候変動の問題が一段とクローズアップされるなか、中東諸国の多くが化石燃料依存型経済から脱却する必要に迫られており、現地への製造業の工場進出やスマートシティ構想の移植などで日本の技術をいかせるチャンスがある。だが、イスラム教と中東のムスリムは、日本人には理解し難い点が少なくないため、関係を深めるのは容易ではないと感じる向きは強いだろう。
本稿では、平和な宗教のはずのイスラム教が、中東において、なぜ、いつから、過激になったのか。過激な人々はどれほどいるのか。また、彼らと付き合う際の注意事項は何かに焦点を当てたい。なお、本稿は、米国人のムスリム(普通の信者とイマム<カトリックの神父のような存在>を含む)、イスラム学者、比較宗教学者、歴史学者などの先生および友人から学んだことと、様々な著書に教えられたことの結果である。
イスラム教は三大一神教の一つだが、その歴史は611年にマホメットが大天使ガブリエルの啓示を受けてから1400年と、ユダヤ教やキリスト教と比べると短い。また、預言者であるマホメットの人生の記録がかなり詳細に残っているが、これは二大宗教とイスラム教の最大の相違点だ。
また、新しい分、男女同権ではないまでも女性の権利を明確に記すなど、他の二大宗教より合理的だと解釈することも可能である。
コーランは、旧・新約聖書と類似した点が多々あるものの、マホメットが21年間に神から預かった言葉の集大成なので、聖書のような預言者の物語や作者別の編集とはなっておらずシンプルである。また、礼拝、断食、結婚など日常生活の規範でもあるため、ムスリムはコーランを現実の生活と照らし合わせて学んできた。
また、コーランはアブラハムやモーゼなど聖書の預言者を認めているが、イエス・キリストは神の子ではなく、あくまで人間の預言者だとしている。
マホメットは、イスラム教の布教を始めてから死ぬまで、異教徒に攻撃されることの繰り返しだった。また聖書の預言者とは異なり政治のリーダーにもなったため、信者である領民を守るためにも戦った。コーランに多神教徒等から自分達を守ることが書かれているのはそのせいだろう。
現在では聖戦と同義に解釈される傾向が強い「ジハード」の真の意味は、「奮闘努力」である。マホメットは、戦闘から戻った兵士に対して、外的との戦いよりも内面の悪との戦いをより崇高なジハードと考えると教えている。しかし、彼の人生が戦いの連続であったこともあり、「ジハード」には早くから「自衛のための戦い」という認識がされるようになった。
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