日本人には理解が難しい中東のムスリムの本質
異文化マネジメントの観点から見る平和な宗教と過激な行動の矛盾の原因と将来
酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授
シンプルなコーラン
イスラム教は三大一神教の一つだが、その歴史は611年にマホメットが大天使ガブリエルの啓示を受けてから1400年と、ユダヤ教やキリスト教と比べると短い。また、預言者であるマホメットの人生の記録がかなり詳細に残っているが、これは二大宗教とイスラム教の最大の相違点だ。
また、新しい分、男女同権ではないまでも女性の権利を明確に記すなど、他の二大宗教より合理的だと解釈することも可能である。
コーランは、旧・新約聖書と類似した点が多々あるものの、マホメットが21年間に神から預かった言葉の集大成なので、聖書のような預言者の物語や作者別の編集とはなっておらずシンプルである。また、礼拝、断食、結婚など日常生活の規範でもあるため、ムスリムはコーランを現実の生活と照らし合わせて学んできた。
また、コーランはアブラハムやモーゼなど聖書の預言者を認めているが、イエス・キリストは神の子ではなく、あくまで人間の預言者だとしている。

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ムスリムにとって「ジハード」とは
マホメットは、イスラム教の布教を始めてから死ぬまで、異教徒に攻撃されることの繰り返しだった。また聖書の預言者とは異なり政治のリーダーにもなったため、信者である領民を守るためにも戦った。コーランに多神教徒等から自分達を守ることが書かれているのはそのせいだろう。
現在では聖戦と同義に解釈される傾向が強い「ジハード」の真の意味は、「奮闘努力」である。マホメットは、戦闘から戻った兵士に対して、外的との戦いよりも内面の悪との戦いをより崇高なジハードと考えると教えている。しかし、彼の人生が戦いの連続であったこともあり、「ジハード」には早くから「自衛のための戦い」という認識がされるようになった。
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