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新型コロナで非常事態。前面に出た安倍首相がするべきこと

検事長定年延長や「桜を見る会」で急速に目減りする支持の反転こそが急務

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

記者会見に臨む安倍晋三首相=2020年2月29日、首相官邸

 「文化・スポーツイベントの自粛」に続いて「全国すべての小中高校の休校要請」。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相が打ち出す国民に対する“思い切った”要請に、日本列島が揺れている。

 人々の日常活動は萎縮し、生活防衛のため日用品の買いだめもはじまった。スーパーなどの棚が空になる光景からは、1973年の石油ショックが思い出される。ただ、あのときは経済不安だけで、命の危険を感じる健康不安ではなかった。その意味で、石油ショックを超える難局である。

非常事態を乗り切るための二つの条件

 今回の首相の決断については、内容についても、時機をめぐっても、さまざまな異論、批判がある。行き過ぎ、あるいは空回りといった事態にならないか、不安は募るばかりだ。

 そもそも、非常事態を乗り切るためには、二つの絶対的条件が必要だ。

 ひとつは、“司令塔”である政権担当者が、国民から圧倒的に信頼されていることだ。そしてもうひとつは、発する指令の内容が大半の人を納得させ得ることである。

 残念ながら、その点では、現状は条件が満たされているとはとうてい言い難い。とりわけ、司令塔たる安倍首相への支持がこのところ急激に下落しているのが気がかりだ。

 ひょっとすると今回の一連の要請は、低落した支持の回復を期待して行われているのだろうか。もしそうだとすれば、効果はむしろ逆になる可能性がある。

支持率の不振が目立つメディアの世論調査

 メディア各社が実施した直近の世論調査をみると、支持率の不振が目立つ。もっとも顕著なのは産経・FNN合同調査(2月22、23日実施)だ。安倍内閣の支持率は前回(1月11、12日実施)に比べて8.4ポイント減の36.2%、不支持率は前回よりも7.8ポイント増の46.7%だった。支持と不支持が入れ替わったうえ、不支持率が支持率を10ポイントも上回るという大きな変動である。

 政権にとっては、予想外どころか驚天動地の数字である。この調査結果が首相に変身を迫ったとも言われているが、その通りだろう。

 他のメディア各社の世論調査も同様に内閣支持率の低落傾向を示すが、産経ほど厳しい数字ではない。たとえば、朝日新聞の調査(2月15、16日実施)では、内閣支持率は39%、不支持率は49%だ。

 ちなみに、産経の調査では、新型コロナウイルスへの政府の対応についても質問している。回答は「評価する」が46.3%、「評価しない」が45.3%と割れている。朝日の調査ではクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号への対応をきいているが、こちらは「適切ではない」が45%と「適切だ」の39%を上回っている。

 世論調査に示されたこうした数字をどう読むかはなかなか難しいが、それまでの政府や首相の対応に世論が「もの足りなさ」を感じているということははっきり言える。そして、この調査結果が、安倍首相を舞台の前面に引き出したのだろう。

高評価の蔡英文台湾総統の新型コロナ対応

台北市内の総統府で1月30日に開かれた記者会見に臨む蔡英文総統(右)=2020年1月30日、台湾・総統府提供

 新型コロナへの対応をめぐっては、台湾の蔡英文総統の対応に関する評価の高さが、安倍首相とは対照的だった。

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