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監視社会・中国と新型コロナウイルス対策

日本に生かせる教訓は

塩原俊彦 高知大学准教授

 中国は「社会信用体系」という、国務院が2014年6月に発表した「社会信用体系構築計画綱要(2014~2020年)」を推進している。社会の持続的発展のために「信義誠実の欠如」という問題を改善する目的で信用情報システムを整備し、さまざまな信用データベース化が計画された。

「役立っている」監視体制

 その一環として、主要都市での監視体制の強化が進み、都市部では「天網工程」(Skynet)、農村部では「雪亮工程」(Sharp Eyes)という監視システムが整備されつつある。顔認証システムがこれに組み込まれて、衆人環視の道へと踏み出したことになる。

拡大中国で開発が進む顔認証システム  helloabc / Shutterstock.com

 こうした監視社会が今回の新型コロナウイルス騒動で「役に立っている」らしい。2020年2月12日付の「南華早報電子版」によれば、春節の休み前に500万人以上が武漢から離れたが、当局はその足跡をたどることができたという。

 だれもがスマートフォン携帯している時代に入り、追跡が可能となったのだ。恐ろしいことに、プライバシー保護が不十分な中国では、武漢への渡航歴のある人々の写真や携帯電話番号を含む個人データがインターネットやソーシャル・メディアにリークされ、脅迫を受ける騒ぎまで起きた。監視システムの顔認証を使って当該人物を特定することは比較的簡単だから、事態は深刻であったことになる。

 もっとも、マスクで顔を覆うと顔の認証精度は3割方低下するらしい。だからこそ、香港での反政府活動者にマスク着用を禁止したわけである(関連記事「香港政府の覆面禁止 「顔認証」への重い問いかけ」を参照)。それでも、新型肺炎という「大疫」に「人民戦争」で挑もうとしている習近平指導部は監視システムの積極的に利用しようとしている。手段を選ばず、何でもやる覚悟がみえる。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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