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新型コロナウイルス対策で臨時休校を要請した安倍首相の支離滅裂

何の準備もなく唐突に始まった「超巨大国家プロジェクト」はおかしいところだらけ

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

 2月27日、第15回新型コロナウイルス感染症対策本部において、安倍晋三総理が突如「全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請した」(首相官邸HP)ことが大きな波紋を広げ、29日には総理がこの要請について再度の記者会見を行う事態となりました。

 私は、総理の度重なる発表・会見にもかかわらず、この要請は端的に「支離滅裂」と考えます。本稿ではこの点について論じたいと思います。

法的根拠のない首相の「越権行為」

拡大新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大への対応などについて記者会見を終える際、さらに質問を要求する記者を見る安倍晋三首相=2020年2月29日、首相官邸

 まずもって、小中学校の休校を管轄するのは市町村教育委員会、高校の休校は県教育委員会であり、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」はその教育委員会について、以下のよう定めています。

第二十一条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。
一 教育委員会の所管に属する第三十条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、管理及び廃止に関すること。
九 校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
十 教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
十九 前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。

第二十二条 地方公共団体の長は、大綱の策定に関する事務のほか、次に掲げる教育に関する事務を管理し、及び執行する。
六 前号に掲げるもののほか、教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行すること。

 学校の休校は、原則として同法に基づき、教育委員会が決定し、その予算執行は各自治体の首長が行うもので、総理といえどもこれについて一切の権限を有しません。

 つまり、今回の安倍総理の要請は、なんの法的根拠もない「越権行為」にすぎないのですが、仮にそうであっても、国の行政トップである総理が要請すれば、事実上それが“決定事項”となり、全国の自治体の首長や教育委員会がこれを覆すのは極めて困難になります。換言すれば、総理の今回の「要請」は、公教育の独立性を確保するために定められた教育委員会に関する法の趣旨を真っ向から否定するもので、日本の法秩序を大きく害するものと言わざるを得ません。

「首相の責任」「現場の責任」が二転三転

 ところが、安倍総理は27日に力強く「一斉休校」を「要請」しておきながら、早くも28日に予算委員会で「基本的な考え方として示した。各学校、地域で柔軟にご判断いただきたい」と発言。文部科学省も全国の都道府県教育委員会などに対し、学校保健安全法に基づく臨時休校を求める内容の通知を出しながら、その中で「地域や学校の実情を踏まえ、各学校の設置者の判断を妨げるものではない」としていました。

 一部の識者はこれをもって、「原則を踏まえた要請である証左」などと総理の「越権行為」を正当化しましたが、国の行政トップとしての絶大な権力と影響力を背景に事実上強制しておきながら、「各学校、各地域で」「各学校の設置者で」判断しなさいなどと「責任転嫁」をされたら、たまったものではありません。

 ところが、おそらく、この「現場の責任」という物言いに「責任転嫁」という批判が広がったからだと思われますが、29日に開いた記者会見では、安倍総理は、再度「自らの責任」を強調しました。わずか3日の間に「総理の責任」と「現場の責任」が二転三転し、結局いったいこの「要請」をだれの責任で実行すべきなのか、誰にもわからない状況になっています。

 そもそも「越権行為」としてなされ、今現在誰の責任で実行を判断するのかすら分からない事態に陥っているこの前代未聞の「一斉休校」の「要請」は、そのやり方自体、最初から「支離滅裂」であると言わざるを得ません。


筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 衆議院議員・弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2022年衆院選に当選(新潟5区)。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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