何の準備もなく唐突に始まった「超巨大国家プロジェクト」はおかしいところだらけ
2020年03月01日
2月27日、第15回新型コロナウイルス感染症対策本部において、安倍晋三総理が突如「全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請した」(首相官邸HP)ことが大きな波紋を広げ、29日には総理がこの要請について再度の記者会見を行う事態となりました。
私は、総理の度重なる発表・会見にもかかわらず、この要請は端的に「支離滅裂」と考えます。本稿ではこの点について論じたいと思います。
まずもって、小中学校の休校を管轄するのは市町村教育委員会、高校の休校は県教育委員会であり、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」はその教育委員会について、以下のよう定めています。
第二十一条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。
一 教育委員会の所管に属する第三十条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、管理及び廃止に関すること。
九 校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
十 教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
十九 前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。第二十二条 地方公共団体の長は、大綱の策定に関する事務のほか、次に掲げる教育に関する事務を管理し、及び執行する。
六 前号に掲げるもののほか、教育委員会の所掌に係る事項に関する予算を執行すること。
学校の休校は、原則として同法に基づき、教育委員会が決定し、その予算執行は各自治体の首長が行うもので、総理といえどもこれについて一切の権限を有しません。
つまり、今回の安倍総理の要請は、なんの法的根拠もない「越権行為」にすぎないのですが、仮にそうであっても、国の行政トップである総理が要請すれば、事実上それが“決定事項”となり、全国の自治体の首長や教育委員会がこれを覆すのは極めて困難になります。換言すれば、総理の今回の「要請」は、公教育の独立性を確保するために定められた教育委員会に関する法の趣旨を真っ向から否定するもので、日本の法秩序を大きく害するものと言わざるを得ません。
ところが、安倍総理は27日に力強く「一斉休校」を「要請」しておきながら、早くも28日に予算委員会で「基本的な考え方として示した。各学校、地域で柔軟にご判断いただきたい」と発言。文部科学省も全国の都道府県教育委員会などに対し、学校保健安全法に基づく臨時休校を求める内容の通知を出しながら、その中で「地域や学校の実情を踏まえ、各学校の設置者の判断を妨げるものではない」としていました。
一部の識者はこれをもって、「原則を踏まえた要請である証左」などと総理の「越権行為」を正当化しましたが、国の行政トップとしての絶大な権力と影響力を背景に事実上強制しておきながら、「各学校、各地域で」「各学校の設置者で」判断しなさいなどと「責任転嫁」をされたら、たまったものではありません。
ところが、おそらく、この「現場の責任」という物言いに「責任転嫁」という批判が広がったからだと思われますが、29日に開いた記者会見では、安倍総理は、再度「自らの責任」を強調しました。わずか3日の間に「総理の責任」と「現場の責任」が二転三転し、結局いったいこの「要請」をだれの責任で実行すべきなのか、誰にもわからない状況になっています。
そもそも「越権行為」としてなされ、今現在誰の責任で実行を判断するのかすら分からない事態に陥っているこの前代未聞の「一斉休校」の「要請」は、そのやり方自体、最初から「支離滅裂」であると言わざるを得ません。
とはいえ、例えば児童の間で新型コロナウイルスを疑わせる症状の感染症が蔓延(まんえん)し、「感染の拡大防止」のため、全国で「一斉休校」が望まれるのに、全国の市町村・都道府県の教育委員会が休校を決断できないなどの状況で、感染症の専門家らの意見を聞いたうえで、会議体からの「勧告」などのかたちで休校を求めるのであれば、「高度に専門的見地からの要請」として正当化できる余地もあると思います。
しかし、患者が多く発生している北海道などの一部地域を除き、今年は例年に比べてインフルエンザの患者も少なく(国立感染症HP)、「児童における全国的な感染症の流行」の報告は聞かれませんし、知るうる限りその様な発表をしている政府機関もありません。また、新型コロナウイルス問題について専門家の立場から政府に助言する「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」も、「一斉休校」に関して一切議論をしていないことを認めています(BuzzFeed2月28日)。
総理は27日の新型コロナウイルス感染症対策本部においても、29日の記者会見においても、具体的な根拠を示すことなく、「ここ1、2週間が極めて重要な時期であります」と断定的に述べていますが、その前提となるはずの「児童における全国的な感染症の流行」が存在しないのです。
総理は27日の新型コロナウイルス感染症対策本部で「多くの子どもたちや教職員が、日常的に長時間集まることによる感染リスクにあらかじめ備える」とし、29日の会見でも「学校において子供達に集団感染の様な事態を起こしてはならない」と強調しています。しかし、
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