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「韓流」に「日流」が追いつく日/「JO1」「Nizi Project」に未来を見る

DJ古家正亨が語るウラオモテ(下)

市川速水 朝日新聞編集委員

――前回の『韓流と「反日」と政治の微妙な関係を解剖する~DJ古家正亨が語るウラオモテ(中)』は、なんだか暗く終わりましたね。日韓の政治・外交が韓流に影響するばかりでなく、韓国のファンとスターの距離にも深刻な問題があることが分かりました。

 最終回では、韓流の魅力の神髄とは何か、そして韓流の流れが発展していくのか、そこに日本がどう絡んでいくかを考えたいと思います。まず、改めて2003年以来の「冬のソナタ」人気の本質について振り返ってください

古き良きものを捨てた日本の「奢り」

 「いまだに『なぜ冬ソナは、あんなに日本で流行ったんだろうね』とよく韓流の仕事仲間の間で話題になります。そんな爆発的な人気を掘り下げていくと、日本でドラマを作っている人たちの『奢(おご)り』への、視聴者の反動もあったような気がします。

「赤いシリーズ」で俳優としても大スターに駆け上がった山口百恵
 僕は昔、大映テレビが制作していた一連の『大映ドラマ』が大好きでした。1970年代に、TBSと大映テレビが共同制作した『赤いシリーズ』がよく知られていますが、このほかにも『スクールウォーズ』や『スチュワーデス物語』、『スタア誕生』など80年代に数々の名作を送り出しました。主人公には常に逆境があり、ありえない事故や過剰ともいえる演出など、基本的に韓流ドラマは、大映ドラマの影響をかなり受けているような気がします」

――韓流の原点の一つが日本のドラマにあると。なぜ日本は変わったのでしょう

 「日本では1980年代後半からフジテレビを中心に、いわゆる『トレンディ―ドラマ』と言われる、バブル景気に影響を受けた洗練された作品が人気を博し始めました。すると、ベタともいえる展開のドラマを『古臭い』と感じる人が増えてきたわけです。

 ところが、当然そんなベタな作品を好きな人も多いはずなのに、ドラマ界ではそんなベタさを避けて、洗練された作品作りにひた走るようになっていきます。視聴率至上主義に陥っていくテレビ界において、それは当然の流れだったのかもしれません。

 時代劇だって、確実にニーズはあるはずなのに、今日本ではほとんどオリジナル時代劇が制作されなくなってしまいました。やはりその背景にも視聴率の問題があります。ただ、当時の僕を振り返ってみると、僕はどちらかと言えばベタ派だったので、トレンディ―ドラマに対するアンチテーゼが、心のどこかにあったのかもしれません。

 でも、そういった人は僕だけではなかったはずです。要はベタでも見せ方次第で、新しい価値を持たせることは可能だったと思うんですね。

 例えば韓国では今でも数多くの時代劇が作られていますが、王道の時代劇ではなく、そこにラブコメやタイムスリップものの要素を加えたり、医療ものや刑事ものといったジャンルと融合させたりするなど、新しい価値をどんどん生み出して、いつの時代にも時代劇は人気を博しています。

 先の話に戻ると、そんなベタなものが古いと言われていた時代に、『冬ソナ』のような、恐ろしいほどベタな展開のドラマが現れた。未知の言語にも関わらず、イケメンと美女が分かりやすい感情表現と心をつかむ情緒豊かな音楽で、その世界、つまり大映ドラマ的な世界を20年後の2000年代に蘇らせた。

 そして、僕のようなそんな世界観が大好きで、その時代に青春を謳歌した人々に、もう一度その良さ、素晴らしさを提供したことで、一気に人気に火が付いた。心動かされた人が多かったのではないでしょうか。

 ただ、そこに科学的分析を加えようとすると限界があるように感じますが、底流にはアジア人共通の何かというものがあったはずです。郷愁なのか、懐かしさなのか、情なのか、分かりませんが。その意味で、『冬ソナ』の存在とヒットはエポックメーキングとして日韓関係の20年振り返った時、大変大きなインパクトだったと思います。

 そして今、『冬ソナ』に匹敵するかどうかはわかりませんが、新たな動きが出てきています」

「韓流」の枠を超え独り歩きするコンテンツ

――新たな動きですか? かつての韓流と違う大きな波ということですか?

 「そうです。まずは映画からなんですが、これまで日本で公開された韓国映画の興行成績をみると、上位10作品のほとんどが2000年代前半の公開作品で占められていて、30億円の興収を記録した『私の頭の中の消しゴム』が今年2020年まで不動の1位を守っていました。業界内でも、今後この30億円を超えるような作品はないだろうと言われていたんです。

 その理由として上位10作品は、いずれも『冬ソナ』ブーム前後に公開された、いわゆる韓流ドラマ的なわかりやすい作品が多く、当時は時代背景もあり、多くの韓流ファンがドラマの延長上として映画を楽しんだ結果、ドラマファンを巻き込み、10億円以上の興収を記録するヒットを量産できたと言われてきました。

 ところが現在もヒット中の『パラサイト‐半地下の家族』が、37億円(2020年3月3日現在)を超え、15年間塗り替えられることのなかった興行収入1位の座に輝いたことは、画期的という言葉以外、思いつきません。しかも、まったく韓流ドラマ的要素のない作品にもかかわらずです。

 もちろん、米アカデミー賞受賞効果もあったとは思いますが、これまで15年間、世界の映画祭で絶賛された韓国映画は数多くあれど、ここまでのヒットは1作品もありませんでしたから、それだけが理由ではないはずです。見る人が見れば、これほど韓国映画らしい韓国映画が評価されるようになったことを感慨深く思う人も少なくないはずです。

 僕はこのヒットに関して、韓流ファンではなく、普通の映画ファンが『パラサイト』という作品を観に来たから生まれた結果ではないかと思っています。なので、逆に言えば、今後もそういった韓国映画というカテゴリーではなく、一作品としてその評価、興味が独り歩きし始めたとき、『パラサイト』の記録を塗り替える作品が出てくると思います」

――映画以外のドラマも、日本に伝わる手段がずいぶん変化しました。

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