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安倍退陣を見据え、石破茂に改めて「防衛観」を質す

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 神話はどのようにして生まれ、どのようにして消えていくのか。歴史上繰り返されたその神聖喜劇の寸劇をわれわれは目の当たりにしているのかもしれない。

 「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介元首相を祖父に頂き、安倍晋太郎元外相を父に、佐藤栄作元首相を大叔父に持つ現首相、安倍晋三は、七光りを何倍にもしたような輝きを放ちながら二度目の政権を組織し、大胆な超金融緩和政策を放って衆目を引きつけた。

 以来、数々の問題法案を成立させ、憲法9条の解釈を変更して歴代政権が禁忌としてきた集団的自衛権を導入した。権力の私物化が指摘され、露骨な公文書改竄が露見しても誰も責任を取らない政権。政府行事に多数の地元有権者を招き、前代未聞の公職選挙法違反の疑いを持たれている首相。

 それでも日本史上最長となる7年間、政権を長らえてきた。そこには「一強」という神話が横たわっている。この神話をうまく利用すれば甘い汁が吸える反面、逆らえば冷や飯を食わされるという怯懦と諦めの精神が永田町や霞ヶ関を支配している。

 しかし、「官邸代理人」と呼ばれる黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題や、コロナウイルス禍に対する拙劣な対応から「一強」神話が大きく崩れてきた。

 2月27日夜、自民党の石破茂元幹事長や岸田文雄政調会長、中谷元・元防衛相、石原伸晃元経済再生相の4人が東京都内のフランス料理店に集まった。その時何が話し合われたか。テレビ朝日の報道から拾ってみよう。

石破茂氏

石破、岸田、中谷、石原の4者会談

 「ポスト安倍」に名を連ねる自民党の岸田政調会長や石破元幹事長らが都内で会談し、自民党を取り巻く状況について「極めて危機的だ」との認識で一致しました。/会合には岸田氏や石破氏のほか、石原元経済財政担当大臣と中谷元防衛大臣も出席しました。/石破氏によりますと、東京高検の黒川検事長の定年延長問題について「非常に批判が強く、やり方についてかなり問題がある」との意見が出たということです。/また、新型コロナウイルスに対する政府の対応への批判も「予想以上のものがある」と語りました。/一方、安倍総理大臣が来月2日から全国の小学校などを臨時休校にするよう要請したことについて、中谷氏は「党の方にはほとんど相談なく、テレビで知った。きちんと議論を重ねてやっていくべきだ」と苦言を呈しました。

 この報道を受けて、私はすぐに、比較的厳しいコメントをツイートした。

 石破と岸田、石原、中谷が安倍のやり方に「極めて危機的」の認識で一致。特に黒川の定年延長問題とコロナ対応のズサンさ。遅いよ自民党。安倍一派はとっくの前に常軌を逸している。しかしここまでの表現を出すからには党を割る覚悟で安倍を引きずり下ろすんだろうな。

 このツイートに対して「イイネ」の数は1万、リツイートは5000をそれぞれ超えた。コメントの数241。反応は大別して二つに分かれた。

 「遅すぎるし、手遅れかもしれないけど、本当に何とかしてほしい。頑張ってよ!」

とする応援派。もうひとつは、

 「彼らにそれだけの根性はないでしょう。あったらとっくに行動を起こしています」

とする懐疑派。

 この二派の数には及ばないが、4人の中でダントツで期待をかけられたのが石破だった。石破は、政権に復帰した後の自民党総裁選で安倍に二度挑戦、敗れはしたが「一強」神話に対する現実的な脅威となった。私のツイートに対するコメントでも、

 「私は、アベの世の中が続くくらいなら、喜んで石破さんを応援する!」

とアンチ安倍の支持者が多い。

衆院予算委の開会前、言葉を交わす自民党の岸田文雄政調会長(右)と石破茂氏=2018年2月2日

 2月27日の会合を取材した時事通信や産経新聞などの記事によれば、自民党を取り巻く環境は極めて危機的であることから、4人は「結束して政府を支えていくことを申し合わせた」となっている。

 しかし、政治の世界では、地表に出てこない地下のマグマの動きがどのような大きな爆発を起こすか予測がつかない。少なくとも自民党内の地表下では、噴出口を求めてマグマが活発に煮えたぎっていることは事実だ。

 その最も大きい噴出口のひとつが石破だ。

石破の日米安保観

 会合の2日前の2月25日午後2時30分、東京・内幸町のプレスセンター・ビルで石破の記者会見が開かれた。改定日米安全保障条約60周年を機に日本記者クラブが企画した会見だ。

 同じ企画で1時間前には、ケビン・シュナイダー在日米軍司令官が会見を開いていた。シュナイダー司令官には、首都圏の上空にデンと横たわる横田空域など日米地位協定の問題に質問が集中した。

 首都圏をはじめ1都8県の上空を覆う米軍の管理空域は「横田ラプコン」(RAPCON=radar approach control レーダー進入管制)と呼ばれ、米軍以外の航空機は入れない。この米軍支配空域を避けるため、西の空に向かう羽田発の航空機でも必ず千葉県の房総半島方面に離陸し、急旋回しながら急上昇していかなければならない。

 日米地位協定が日本に押しつける「不平等」は空域にとどまらない。実質的な「米軍治外法権」や航空法など国内法の適用免除、出入国管理法の適用除外、裁判における米軍優先権などかなりの数に上る。

 在日米軍の主要空軍部隊である第5空軍司令官も兼務するシュナイダー司令官の答えは米軍にとってソツのないものであり、日本の記者たちの質問の矛先を上手にそらすものだった。

 しかし、その1時間後に会見場に姿を現わした石破は、「不平等」の真の原因をシュナイダー司令官に代わってズバリ言ってのけた。

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