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中島岳志「安倍内閣ではコロナ危機を収束できない。今は『石破内閣』しかない」

石破茂は変わった。彼は静かに勝負に出ている。

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

 下の図を見てほしい。

 2018年9月に本サイト(論座)に掲載された論考(『中島岳志の「自民党を読む」(1)石破茂』)で、私は石破をⅢに位置づけた。(加筆の上、拙著『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンドブックス)に収録)

 石破は小泉内閣の閣僚として新自由主義政策を推進し、「自助努力」の重要性や規制緩和の促進を強く押し出してきた。保育園の拡充や若者世代への福祉政策を説いてきたものの、基調は自己責任論であり、リスクの個人化を追求する「小さな政府」論者だった。

 価値観における「リベラル」と、お金の配分をめぐる「リスクの個人化」。彼は典型的な新自由主義者であり、小泉構造改革の延長上に位置づけられる政治家だった。

 しかし、である。近年、この姿勢に揺らぎが生じている。原稿を発表した後も、石破の発言を追い続けてきたが、この1、2年、新自由主義への懐疑的見解を示し、格差社会の是正に思いを寄せる姿勢が出てきている。

 石破はⅢの姿勢を改め、Ⅱに変化しつつあるのではないか。私は、石破の考えをどうしても聞きたかった。

 変わったのか、変わっていないのか。真意を確かめるべく、対談を申し込んだ。

新自由主義からの転換

 『月刊日本』2019年11月号に、「危機に直面する保守政治」と題した石破と私の対談が掲載されている。石破は対談に快く応じてくれた。

 この対談で明確に語られているように、石破は態度の変化を認めた。私の「なぜ新自由主義に対するスタンスを変えたのでしょうか」という問いに、次のように答えている。

 それは日本でも格差が拡大し、固定化しつつあるからです。グローバル化が進み、高度経済成長期を終えて、日本国内における雇用や賃金のあり方も多様になった一方で、雇用の流動性や再教育の機会は十分に確保されませんでした。その結果、所得の高い層はずっと所得が高く、所得が低い層はずっと低いまま、という格差が、教育格差にも反映して世代を超えつつあります。国と国との格差は縮まるが、国内の格差は拡大するというのがグローバリズムなのです。

 石破は、新自由主義政策の結果、格差が拡大するとともに固定化してしまったことを認め、反省しているのだ。

 様々な規制緩和によって雇用が流動化し、職業訓練などの再教育政策も不十分だったため、不安定で低賃金の労働者が固定化している現実を直視している。労働市場の自由化により非正規雇用となったロスジェネ世代は、40代の中年になっている。彼ら・彼女らは不安定な雇用のまま、そして貧困状態を抱えたまま、高齢化している。

 この状況をどうにかしなければならないというのが、石破の現在のスタンスなのだ。

消費税への懐疑

 石破は、低所得者対策こそが喫緊の課題だと言う。そのときに彼が率直に語ったのは、消費税に対する考え方の変化である。

 かつて石破は、消費税の増税を強く主張していた。消費税によって財源を確保し、財政健全化と地方経済へのてこ入れを進めるべきと言うのが石破の議論だった。

 しかし、彼は考えを変えた。

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