真偽ないまぜの情報がもたらす人々の不安に基づく「静かなパニック」にどう向き合うか
2020年03月05日
2月末、都内某所のドラッグストア前。開店時間より遥かに早い、早朝からマスクを求める人たちの長い行列ができている。取り乱すこともなく、静かに秩序立った様子で、しかし長蛇の列をなしている。
一見、有事における好ましい国民のあり方のようでもある。確かに東日本大震災ののち、被災地のあちこちで見られたこうした姿は概ね肯定的に報じられた。だが、目に見えない、新型コロナウイルスの感染拡大は、震災とはまた異なった負荷を国民と社会に課しているようだ。
マスクは他者への感染防止にこそすれ、自身の感染防止にはあまり効果が認められないとされている。にもかかわらず、早朝からマスクを求める人たちは、新型コロナウイルスにえも言われぬ恐怖や不安を感じているのだろう。
しかし考えてみれば、本来、他者との接触がウイルス感染の契機となるわけで、長時間見知らぬ他者と近い距離で過ごすことになる行列にならぶことが、かえって他者との接触機会や時間を増やし、感染のリスクを増しているともいえまいか。
そして、こうした行列は、その薬局に限らず、筆者が見た限りでも、他の幾つかのドラッグストアでも同様に生じていた。
ネットや報道ではいま、さまざまな生活用品を求める人々のニュースが溢れている。国内生産が9割を超え、サプライチェーンに中国が含まれていないため、供給体制にも供給量にも問題ないとされるティッシュペーパーやトイレットペーパー、オムツ類、さらに消毒に関連するアルコール除菌剤やウェットティッシュまで、実に多くの商品が、少なくとも店頭レベルでは相当に逼迫(ひっぱく)しているようだ。
東日本大震災時よりも“悪質”なのは、個人も含め、買い占めや転売行為が目に付く点だろう。
3月冒頭の時点でAmazonのページを見てみると、マスク60枚、12000円、除菌・消臭スプレー4300円などといった、あ然とする値段の出品もあった。他のオークションサイトなどでも同じような状況のようだ。こうした状況を見ると、我々の社会は、たしかに外見上は平静を装っているものの、二転三転する政府の動向や施策を含め、実際には相当程度混乱した状況にあり、それは「静かなパニック」とでも呼ぶべき状態なのではないか。
「静かなパニック」は、なにも人々が愚かだから生じているわけでもなく、むしろ発達した現在のメディア環境を背景に生じているように思われるだけに、いっそうタチが悪い。
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