関山健(せきやま・たかし) 京都大学 大学院総合生存学館准教授
財務省、外務省で政策実務を経験した後、日本、米国、中国の大学院で学び、公益財団等の勤務を経て、2019年4月より現職。博士(国際協力学)、 博士(国際政治学)。主な研究分野は国際政治経済学、国際環境政治学。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
国際安全保障の大問題である感染症。新型コロナ感染を契機に日本がとるべき対策とは
新型コロナウイルスの脅威に世界各国が怯(おび)えている。2月26日以降は新たな感染者の半分以上を中国以外の国が占めることが多くなった。特に韓国、イタリア、イランでの感染拡大が目立つ。ヨーロッパでも感染が確認された国は20カ国以上に上っている。
その影響は経済にも飛び火している。とりわけ世界の株式市場は激しい値動きに見舞われている。上海や東京が大幅続落した。ニューヨーク株式市場は、2月27日にダウ工業株平均が1190ドル安と過去最大の下げ幅を記録したあとも、大幅な上昇と下落を繰り返している。日本円や米ドルなどの為替市場も先が見通せない。
新型コロナウイルスのような感染症は、安全保障上の脅威である。安全保障は多義的な概念であるが、一般化して言えば、「何か」(客体)を「何か」(脅威)から守ることと言える。感染症は、個々の人間にとって生命身体の安全を脅かすにとどまらず、国家や国際社会にとっても直接または間接に脅威となる。
本稿では、感染症と安全保障という観点から、新型コロナウイルスの問題を考察したうえで、日本政府に今後望む対応について述べたい。
感染症が広まると、それが自然由来のものであれ、人為的なもの(生物兵器、生物テロ)であれ、社会的には以下のような影響が出ると考えられる。
・人口減少や労働力不足
・生産や消費などの経済活動の混乱
・供給減、需要増、買い占めによる一部資源の不足
・感染症の脅威から逃れるための大規模な人の移動
こうした感染症による直接および間接の影響は、いずれも今回の新型コロナウイルスのケースですでに現れている。
たとえば中国では、感染拡大地から遠く離れた地域でも人手を確保できず、経済活動が停滞している。日本で、マスク、消毒液、トイレットペーパー、米、納豆、缶詰、冷凍食品などの品薄が発生しているのは、周知のとおりである。
人の移動という点では、1月26日の時点で周先旺・武漢市長が「春節や新型肺炎の影響により、現在までに500万人余りが武漢を離れた」と記者会見で明らかにした。人口1100万人の武漢市から半数弱の市民が脱出した計算である。