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ポスト・トランプをうかがうイエスマン・ポンペオ

第1部「権力の掌握―ヘドロをかき出せ」(3)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

 アメリカ・ファーストの外交は、トランプ大統領の強固な政権基盤によって成り立っている。ワシントン政界のアウトサイダー、トランプ氏がどのように「エスタブリッシュメント(既得権益層)」とみなす外交安保の専門家たちを政権から追い出し、アメリカ・ファーストの政策実現に向けた環境を整えたのか。トランプ氏が自身の権力基盤を固めていく過程を検証する。

ボルトン更迭の衝撃

 トランプ大統領は閣僚や政府高官の首切り人事を繰り返した結果、政権内の権力を掌握した。その総仕上げが、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)の更迭劇だったといえる。

 2019年9月30日午前、ワシントンで米シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)が開いた北朝鮮問題の会合。ボルトン前米大統領補佐官が壇上にあがると、カメラのフラッシュが盛んにたかれた。10日にトランプ米大統領から更迭を申し渡されて以来、公の場に姿をあらわすのは初めてのことだった。

 トレードマークと言える白い口ひげをたくわえたボルトン氏は開口一番、「北朝鮮指導部は私が私人としてここにいるのを喜んでいるのは間違いないだろう」と述べ、いつものように丸眼鏡をクイッと上げ、会場内の笑いを誘った。

拡大米戦略国際問題研究所(CSIS)で講演するボルトン前大統領補佐官=2019年9月30日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 「北朝鮮が核兵器を放棄するという戦略的決断をしていないことは明らかだ」「北朝鮮の核兵器保有を容認できなければ、軍事力の行使は選択肢の一つでなければいけない」――。

 ボルトン氏はこの日の講演で「飾らない言葉」を使って北朝鮮の脅威を強調し、対北朝鮮強硬派として間接的にトランプ氏の主導する融和路線を批判した。しかし、トランプ氏にとってみれば、すでに閣外に放逐された身であるボルトン氏の主張は、もはや負け犬の遠吠えに過ぎなかったといえる。

 ボルトン氏の更迭もツイッター辞令だった。

 ジョン・ボルトンには昨晩、ホワイトハウスで君の勤務はもう必要ないと伝えた。私はほかの政権内の人たちと同様に、彼の多くの提案には非常に強く反対してきた。よって、私はジョンに辞任を求め、今朝になって彼の辞任の知らせを受けた。本当にありがとう、ジョン。私は来週、新しい大統領補佐官を発表するだろう。

 9月10日午前11時58分、トランプ氏は自身のツイッターでボルトン氏の更迭を発表した。

 トランプ氏とボルトン氏の対立は深刻化しており、ワシントン政界ではボルトン氏の退任は時間の問題と見る向きはあったが、この日の解任を予想する人は少なかった。トランプ氏のツイートのちょうど1時間前、ホワイトハウスから新たな日程の追加がマスコミ向けに発表されており、この日の午後にポンペオ国務長官、ムニューシン財務長官に加え、ボルトン氏の3人がテロ問題をめぐる経済制裁について記者会見することになっていたからだ。

 ボルトン氏はトランプ氏のツイートから10分後に「私が昨晩、辞任を申し出たところ、トランプ氏は『それは明日話そう』と言った」とツイート。自らが主体的に辞任を申し出たわけであり、更迭されたわけでないという反論を試みた。

 しかし、トランプ氏がツイッターでボルトン氏に更迭を言い渡した、という事実がすでに広まり、ボルトン氏は予定していた記者会見を欠席せざるを得なかった。トランプ氏はかつて「彼(ボルトン氏)は強硬な意見をもっているが、私は彼のことが好きだ」と公言していたが、最後の瞬間はボルトン氏が予定していた記者会見を欠席せざるを得ない局面に追い込み、恥辱を味わわせて切り捨てた。


筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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