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ポスト・トランプをうかがうイエスマン・ポンペオ

第1部「権力の掌握―ヘドロをかき出せ」(3)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

「リビア方式」で対立

 ボルトン氏は、G・W・ブッシュ政権内で大きな影響力のあったネオコン(新保守主義)の筆頭格だ。

 2018年4月、更迭されたH・R・マクマスター氏の後任として就任した。トランプ氏の外交交渉の特徴は、相手国を惑わす「予測不能」の演出し、自国に有利なディール(取引)を成立させることにある。米国はいつも本気で軍事的選択肢を視野に入れていることをちらつかせるため、ボルトン氏を「バッドコップ(悪い警官)」役として利用する狙いがあったとみられる。

 しかし、ボルトン氏は他国への極端な介入主義を唱え続け、イランや北朝鮮への先制攻撃も辞さない態度をとり続けた。ボルトン氏の就任直後、同氏と一緒に働いた経験のある元米国務省高官は「彼の最終目標はいつもレジームチェンジ(体制転換)だ」と懸念を示した。トランプ氏自身、好戦的な言動を繰り返すボルトン氏を徐々にもてあますようになったとみられ、2人の関係は対立へと発展していくことになる。

 イラン問題では米国の無人偵察機をイランが撃墜した事件をめぐり、ボルトン氏はイランに対して報復攻撃をするように強く主張。トランプ氏はいったん攻撃を承認したものの、直前になって「無人機の撃墜とは釣り合わない」と判断し、攻撃中止を命じた。

 タリバーンとの和平協議をめぐっては、トランプ氏はワシントン郊外のキャンプデービッド山荘にタリバーン指導者を招くことを計画していたが、ボルトン氏が反対した結果、今度は逆にトランプ氏が断念した。

 2人の溝を決定的に深めたのが、北朝鮮をめぐる対応だ。

 2019年2月にベトナムで行われた米朝首脳会談では、スティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表が合意案づくりを進めたが、ボルトン氏がトランプ氏に働きかけて決裂させた。しかし、その後もトランプ氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との個人的な関係を重視して対話路線を続け、ボルトン氏は最終的に「北朝鮮問題から完全に外されていた」(米政府関係者)という。6月、板門店におけるトランプ、正恩両氏の会談の際、米側代表団の中にボルトン氏の姿はなかった。

 ボルトン氏の更迭を発表した翌9月11日、トランプ氏は記者団とのやりとりで、更迭の理由についてボルトン氏がかつて「リビア方式」を北朝鮮に適用するように提唱したことを真っ先に挙げ、「最悪だった」と非難した(The White House. “Remarks by President Trump in Meeting on E-Cigarettes.” 11 September 2019.)

 「リビア方式」とは2000年代にリビアが核開発を放棄した後に制裁を解除した手法だ。ただし、カダフィ政権はその後崩壊し、最高指導者のカダフィ大佐は殺害されており、北朝鮮側がボルトン氏の主張した「リビア方式」の適用に強く反発し、シンガポールにおける初の米朝首脳会談の開催が一時危ぶまれた経緯がある。

 そんなボルトン氏がこの時期に更迭された最大の理由は、2020年大統領選にあるといえる。

 トランプ氏にとって最も重要な政治テーマは大統領選で再選することにある。そのためには、北朝鮮であれ、イランであれ、選挙に不利になる戦争という事態を絶対的に避けたいという考えが根底にある。

 トランプ氏は9月11日の記者団とのやりとりで「ボルトン氏は極めて強硬派であり、我々をイラン(問題)に巻き込んだ」とも不満を述べている。米国市民の間にはイラク戦争やアフガン戦争以来、厭戦気分が広がり、軍事的な介入主義には否定的な意見が強い。

 トランプ氏は世論に敏感だ。軍事介入を辞さないという強面を見せるのは、相手国に圧力を与え、相手から妥協を引き出すための手段に過ぎない。そんなトランプ氏にとってみれば、ボルトン氏は現実に戦争を誘発しかねない危険な人物であると同時に、自身が大統領選再選を目指すうえで邪魔な存在になってきたといえる。

 ワシントン政界において、ボルトン氏は緊迫が高まるイランやベネズエラとの軋轢を作り出す張本人と目されていた。マーク・フィッツパトリック元国務次官補代理(核不拡散担当)は「ワシントンの人々は今回の更迭でトランプ氏が軍事介入に踏み切る可能性が低くなったと考え、ホッとしている」と語る(マーク・フィッツパトリック氏へのインタビュー取材。2019年9月10日)。

ボルトンの後任は正反対の性格

 ボルトン氏の後任には、米国務省のロバート・オブライエン人質問題大統領特使が就任することが決まった。

 オブライエン氏の知名度はワシントン政界では高くない。弁護士出身であり、国連安保理の法律顧問を務めたのち、2005年にブッシュ政権で国連総会の米政府代表に就任し、当時国連大使だったボルトン氏とも一緒に働いたことがある。メディアの注目を集めたのは、2019年6月末にスウェーデンで暴行騒ぎを起こして拘束された有名ラッパーのエイサップ・ロッキー氏の解放交渉に関わったときくらいだ。

 ただ、ワシントンの外交筋は「ボルトン氏とは正反対の性格の人物。北朝鮮問題をめぐっても、トランプ政権が平和的に対話路線を進めるというシグナルを送ることになるだろう」と期待感を示す。

 とはいえ、政権の外交安全保障政策の司令塔が頻繁に代わることへの懸念も大きい。

 トランプ政権下において国家安全保障担当の大統領補佐官の交代はオブライエン氏で四人目となる。肩書は補佐官(Advisor)だが、権力は絶大だ。米ホワイトハウス主導の外交安保政策を決定する国家安全保障会議(NSC)の数百人規模のスタッフを束ね、外相である国務長官、防衛相である国防長官と匹敵する要職である。

 NSCの司令塔が次々と交代するということは、米国の外交安保政策の不安定化をあらわしているといえる。ただし、トランプ氏からみれば、一貫した政策にしばられず、自身の即興的な政策決断がやりやすい環境になっているともいえる。

 米政府関係者によれば、オブライエン氏をトランプ氏に推したのはポンペオ氏だという。ボルトン氏が出席するはずだった9月10日の記者会見で、ポンペオ氏は今回の更迭劇を尋ねられると「驚いていない」と笑顔を見せた。ライバルだったボルトン氏が閣外に出たことで政権内において影響力を増し、今後はオブライエン氏を通じて米ホワイトハウスにおける外交政策の決定にさらに影響を与えるとみられる。

拡大国連総会後に行われた記者会見で、記者からの質問に答えるトランプ大統領を見守るポンペオ国務長官(左)=2019年9月25日、ニューヨーク、ランハム裕子撮影

 トランプ氏の忠実な「イエスマン」とみられるポンペオ氏はどのような人物か。

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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