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新型コロナ対応で緊急事態宣言はデメリットだらけ

「異次元の不況」を招く愚策は避けよ。必要なのは「平常対応」できる体制の構築だ

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

名古屋ウィメンズマラソンで自転車でランナーを追いかけないよう呼びかけるスタッフ。ただ、今回は応援自粛で人は少なく、「効果あまりないかも……」との声も=2020年3月8日、名古屋市千種区

 新型コロナウイルス感染の全国的な広がりに対し、安倍晋三総理は2月27日、唐突に小中高校の「全国一斉休校」を要請。さらに、29日の記者会見で言及した「躊躇なく実施」すべき「立法措置」として、「緊急事態宣言」を行うことができる「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正を打ち出しました。

 3月6日には与党の自民党・公明党が、政府の「新型インフルエンザ対策特別措置法」の改正案に同意し、この改正案の成立後、安倍総理は「緊急事態宣言」を出す予定であると報じられています。安倍総理、政府・自民党をあげて、「特措法改正」「緊急事態宣言」に向かって突き進んでいると言えます。

 しかし私は、現在政府が目指している「新型インフルエンザ対策特別措置法」の改正はそもそも必要なく、「緊急事態宣言」とこれに基づく緊急措置は、それによるデメリットがメリットを大きく上回る愚策だと思いますので、これについて論じたいと思います。

新型インフルエンザ特措法で適応可能

 まず、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)」は、その適応対象を以下のように定めています。

新型インフルエンザ等対策特別措置法
第2条
第1項 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
第1号 新型インフルエンザ等
感染症法第6条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る)をいう。

 次に、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の定めを見てみましょう。

感染症法
第6条
第9項 この法律において「新感染症」とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。

 上記の通り 「新型コロナウイルス感染症」は無理のない条文解釈として、この感染症法6条9項に該当すると考えられます。

 これに対して安倍総理は3月4日の野党との党首会談後、記者団に対し、「未知のインフルエンザでなければ(新型法を)適用できない。既に新型コロナウイルスは『既知の感染症』という認識だ」として改正が必要だと主張していますが、2月29日の記者会見においては、他ならぬ安倍総理自身が「今回のウイルスについては、いまだ未知の部分がたくさんあります。よく見えない、よく分からない敵」として新型コロナウイルスを「未知のウイルス」としています。

 そもそも、安倍総理の言は「ウイルス(病原体)」とそのウイルスによってもたらされる「感染症(病気)」の区別がついていないと思われるのですが、内閣法制局もまた、「今回の新型ウイルスは早期にウイルスの構造が分かってしまったゆえに、その時点で『未知』ではなくなった。それゆえ、新型インフル特措法を適用できなくなった」として総理の見解を支持しているとみられます。

 しかし、上記の通り感染症法第6条第9項は文言上「既に知られている感染性の疾病(病気)とその病状又は治療の結果が明らかに異なる」「疾病(病気)」を「新感染症」としているのであり、特段その「病原体」であるウイルス自体やその構造が未知であることを求めていません。

 常識的に解釈すれば、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を「新型コロナウイルス感染症」に適用するのに改正は全く必要なく、「改正」は総理の都合が理由であると考えざるを得ません。

私権の制限、過度の国家統制に危惧

 とはいえ、その必要性はさておいて、「(改正)新型インフルエンザ特別措置法」(特措法)を適用すればどうなるか考えてみましょう。具体的には、特措法によって、

新型インフルエンザ特別措置法
第32条
第1項 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
第1号 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間
第2号 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき区域
第3号 新型インフルエンザ等緊急事態の概要

第2項 前項第一号に掲げる期間は、2年を超えてはならない。

第3項 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等のまん延の状況並びに国民生活及び国民経済の状況を勘案して第1項第1号に掲げる期間を延長し、又は同項第2号に掲げる区域を変更することが必要であると認めるときは、当該期間を延長する旨又は当該区域を変更する旨の公示をし、及びこれを国会に報告するものとする。

第4項 前項の規定により延長する期間は、1年を超えてはならない。

第5項 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等緊急事態宣言をした後、新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認めるときは、速やかに、新型インフルエンザ等緊急事態解除宣言をし、及び国会に報告するものとする。

第6項 政府対策本部長は、第1項又は第3項の公示をしたときは、基本的対処方針を変更し、第18条第2項第3号に掲げる事項として当該公示の後に必要とされる新型インフルエンザ等緊急事態措置の実施に関する重要な事項を定めなければならない。

で定める「緊急事態宣言」が可能となります。この宣言がなされると、国は「緊急事態」にあるものとして、以下の緊急措置が可能となります。

第45条 多人数向け施設の使用制限、イベントの開催制限
第46条 住民に対する予防接種の実施
第47条 医療、衣料品の確保
第48条 臨時医療施設の設置
第49条 臨時医療施設の為の土地の使用
第50条 物資及び資材の供給の要請
第51条 備蓄物資等の供給に関する相互協力
第52条 電気及びガス並びに水の安定的な供給
第53条 運送、通信及び郵便等の確保
第54条 緊急物資の運送
第55条 物資の売渡の要請
第56条 埋葬及び火葬の特例
第57条 私権の保全
第58条 金銭債務の支払猶予
第59条 生活関連物資等の価格の安定
第60条 融資

 これを見て分かるとおり、「緊急事態宣言」によって可能となる緊急措置の内容は極めて広範でかつ私権の制限を含み、なにより国家統制経済の色合いの強いものです。そういった「私権制限・国家統制の行き過ぎや国家権力の濫用」を制限する方向の改正であれば、当然議論がなされてよいものと思います。

 しかしながら、現在報道されているところや政府のSNS上での発信によれば、政府・自民党が示しているのはそういった方向の改正では全くなく、むしろ、幅広く「緊急事態宣言」を出すことを可能とし、国の裁量を強化することだとされており、政府・自民党の「改正特措法」が成立すれば(成立するでしょう)、「私権制限・国家統制の行き過ぎや国家権力の濫用」がなされることが強く危惧されます。

新型コロナウイルスへの対応について記者会見する安倍晋三首相=2020年2月29日、首相官邸

新型コロナウイルス感染の現況

 このように、「改正」の動機にも中身にも問題が多い「新型インフルエンザ特措法改正」ですが、それ以上に大きな問題は、

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