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新型コロナで緊急事態宣言か。「独裁官」と危機の民主主義

古代ローマの「独裁官」制度から考えた今の日本の緊急事態に必要なこと

宇野重規 東京大学社会科学研究所教授

制度としての「独裁官」とその特徴

 政治の歴史を振り返ってみると、古代ローマに「独裁官」という官職があったことが注目される。この言葉はいわゆる「独裁(dictatorship)」の語源となったものであり、名前だけを聞くと、一瞬ギョッとしてしまうかもしれない。

 ただし、この制度が興味深いのは、それがあくまで制度的なものであることだ(詳しくは拙稿「政治思想史における危機対応―古代ギリシャから現代へ」―東大社研・玄田有史・飯田高編『危機対応の社会科学 上』東京大学出版会―を参照)。

 事実上、独裁的な権力を持った人物ならば、歴史にいくらでもいる。しかし、このローマの「独裁官」は、あくまで制度的なものであり、非合法な存在ではなかった。

 「独裁官」は戦争や内乱などの緊急事態にあたって任命され、超法規的な措置を行う権限を持っていた。ただし、その権限は無限に続くものではなく、一定の時間が過ぎると終了する。

 重要なのは、任務の終了後に、その任務をよくはたしたかどうか厳しく審査された点だ。もしその強大な権限を濫用(らんよう)したと判断されれば、処罰を免れなかったことが制度の特徴である。

 その意味で、古代ローマの政治的知恵は、緊急時には平時と違う政治的対応がありうるという前提のもと、あくまで事前に制度を準備し、事後に厳しく審査したことに見出せる。緊急事態の名の下に、人民と元老院からなる通常の政治システムによるチェックが否定されたわけではないことを、十分確認しておく必要があるだろう。

事前の明確な規定と事後の責任チェック体制が不可欠

拡大新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正に協力を求める安倍首相との会談に臨む立憲民主党の枝野幸男代表=2020年3月4日、国会内
 それゆえ、仮に日本で「緊急事態」を考える場合も、
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筆者

宇野重規

宇野重規(うの・しげき) 東京大学社会科学研究所教授

1967年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。同大学社会科学研究所准教授を経て2011年から現職。専攻は政治思想史、政治学史。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、『保守主義とは何か』(中公新書)など。

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