メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

植松聖被告は「控訴しない」と述べた

[178]横浜地裁・最終弁論、宮城県丸森町、沖縄・那覇……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

2月19日(水) 朝9時に横浜地裁へ。神奈川県相模原市の津久井やまゆり園で起きた障害者殺傷事件の最終弁論の傍聴のためだ。今日で裁判は結審となり、あとは判決の言い渡しだけとなる。

 傍聴券を求めてたくさんの人々が集まっているが、その多くは我々メディアが雇ったアルバイトだったりする。これはもう公然の秘密だ。18枚の一般傍聴券を求めて数百人が並ぶ。報道機関用の傍聴席は確保されているのだが、それではとても足りないのだ。特にこの法廷ではスケッチ画家が必ず入っていて交代で出入りする。新聞やテレビがそれぞれ画家さんを雇っているので、延べ傍聴人数はかなりの数となる。CディレクターやMカメラマンらと裁判所近くの象の鼻パークで合流して、ダメもとで抽選にのぞむ。まもなくして当選番号が掲示された。何と僕が引いた番号が当たった。驚いた。

 何人かの人々に開廷前にインタビュー。そのまま法廷へと向かう。所持品検査が非常に厳格だ。今日はこの法廷とほぼ同じ時刻に、大阪地裁の森友学園事件裁判で籠池夫妻に対して判決が言い渡されているはずだ。どちらの法廷を傍聴するか正直迷ったのだが、植松聖被告の事件は自分のなかでいまだに大きな闇のように拡がっていて、本人と拘置所で面会していたこともあってこちらへ来たのだった。

公判で被告人質問に答える植松聖被告=202001月24日、横浜地裁、絵と構成・小山真徳 拡大被告人質問の際の植松聖被告=2020年1月24日、横浜地裁、絵と構成・小山真徳

 この裁判は裁判員裁判で、裁判長席の後ろや横に裁判員たちが座っている。植松被告のまわりには警備員が立って取り囲んでいる。黒いスーツ姿。右手に包帯をしている。初公判の法廷で突如噛み切ろうとした小指の損傷のためだ。植松被告をじっと見ていたら一瞬目があった。彼は軽くこちらに黙礼した。

 その後、弁護人の主張をずっと聞いていたが、基本は植松被告には責任能力がないという内容だった。大麻や脱法ハーブなどの影響で精神に障害をきたしていたのだと。植松被告は犯行直前にも大麻を吸引していた。そのことは面会した時、本人も語っていた。弁護側は、責任能力ありと鑑定した大沢達哉医師の精神鑑定について強く論難していた。その主張にはそれなりの説得力があると僕は思った。弁護人が主張する犯行時の植松被告は「ブレーキ自体が壊れている状態のうえに、アクセルが入りっぱなしになっている状態」だったと。

 弁護団の主張が責任能力論に限定して争ったので、この事件のもっと大きな背景、彼の抱いていた「優生思想」の検証などは法廷では議論にならなかった。それでいいのだろうか。この事件がいったいどうして起きたのかの究明は責任能力論では言い尽くせないほどの拡がりがあるのではないか。

 12時3分頃になって、最後に裁判長が被告人に発言を促すと、植松被告は持論を3点にわたって述べた。第一点目はヤクザがどうのこうのと支離滅裂なものだった。第二点目は、どのような判決が出ようとも自分は控訴しないと言い切ったことだった。一審だけでも長すぎたと。つまり予想される死刑判決を受け容れるという趣旨と理解した。第三点目で、植松被告は重度の障害者の親の境遇についても言及していた。これも意味不明の部分があった。最後に長い間ありがとうございましたと一礼して閉廷した。

 いろいろな人が傍聴していた。元やまゆり園に勤務していたという専修大学の講師。『こんな夜更けにバナナかよ』などを書いた作家の渡辺一史さん。被害者の親の尾野剛志さん。篠田博之さんや雨宮処凛さんら。彼らをメディアが取り囲んでいた。僕も渡辺さんに短く話を聞いた。真摯なお話だった。けれども、僕は何から何まで腑に落ちないのだった。つまり、この裁判だけでは、なぜあんなことを植松被告が起こしたのかが、頭のなかでは了解していても、やはりわからないのだ。

 コロナウイルス禍をめぐるメディア報道のありようについていろいろと調べる。今、起きていることは異様な社会的変動のひとつだ。埃にまみれたミシェル・フーコーの著作を本棚から引っ張り出して再読する。<健康の社会化、社会の健康化という二重の過程が市民社会において強力な力を発揮する>。

判決を前に報道陣に自説を述べる籠池泰典被告(右)と妻の諄子被告=2020年2月19日午前9時38分、大阪市北区、20200219拡大判決を前に報道陣に対応する籠池泰典被告(右)と妻の諄子被告=2020年2月19日、大阪市北区

 籠池泰典被告には何と懲役5年の実刑判決、詢子被告は懲役3年執行猶予5年だったという。泰典被告は収監された。検察の腐敗を象徴する捜査だ。国有地の払い下げ及び公文書の改ざん隠蔽破棄という大罪はついに裁かれずに、籠池夫妻のみを血祭りにあげる。自殺した近畿財務局の職員が浮かばれない。検察の威信は地に墜ちたままだ。

 あした、<3・11>特集の取材で宮城県の丸森町に行くことになる。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

金平茂紀の記事

もっと見る