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元首相は映画『Fukushima 50』をどう見たか 菅直人インタビュー【1】 

事故のリアリティはよく出ている。ただし描かれていないことも多い

中川右介 編集者、作家

 東京電力福島第一原発事故から9年。事故対応にあたった原発職員たちの苦闘を描いた映画『Fukushima 50』(若松節朗監督)が公開されている。映画の中の内閣総理大臣は、怒鳴り散らすだけで役に立たない、ある種の「悪役」として登場しているのだが、当の菅直人元首相は自身のブログなどで「よく出来た映画だ」と、意外にもこの映画を好意的に評価している。菅元首相の著書『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(幻冬舎新書)も担当した編集者・評論家の中川右介さんが、その真意と事故当時の模様を改めて聞いてみた。

「たしかに、私も大声を出しました」

拡大菅直人元首相=2020年3月8日、衆議院第一議員会館

――3.11の原発事故を扱った映画は、いくつかありますが、事故の様子をこれだけリアルに再現した映画は『Fukushima 50』が初めてだと思います。

菅直人元首相 非常に事故のリアリティがよく出ている映画だと思いました。当時を、まざまざと思い出し、あらためて、あの事故のすさまじさを感じました。よくぞ、あそこで止まってくれた、と思っています。「神の御加護」があったから日本は助かったと、本にも書きましたが、最後の最後は、「御加護」があったとしても、吉田(昌郎)所長をはじめとする現場の皆さんががんばってくれたことが、大きかった。

――映画では、佐野史郎さんが「総理」を演じています。役名は「総理」であって、「菅直人」ではありません。誰が見ても佐野さんが演じているのは「菅さん」なんですけど、なぜか、そうなっていない。これについて若松節朗監督は雑誌「キネマ旬報」のインタビューで、「出てくる政府関係者は、役名を与えず役職名だけにしました。実名を出すことで映画を作ることに支障が出るよりは、という判断です」と語っています。どういう「支障」を想定したのか、忖度したのかは分かりませんが、もし、佐野さんが演じているのが「菅直人」だったとして、抗議されますか。

 いやいや、そんなことはしませんよ。周囲の人は、「描き方が戯画的だ」とか色々言ってくれるんですが、そんなに、ひどいとは感じていません。劇映画ですしね。

 福島の事故を描いた映画では、『太陽の蓋』もあります。この映画では、私をはじめ政治家が全員が実名で登場します。映画を作る人が、それぞれの判断と責任でやってくれればいいと思います。あまりに事実と違えば、何か言うかもしれませんが。

 この映画も、もちろん事実と微妙に違う点はいくつかあります。それについては、私のサイトでも説明してありますので、見ていただければと思います。

 たしかに、映画の「総理」は怒鳴っていますが、私もいくつかの場面では大声を出しました。火事場を想像してください。目の前で火が燃えているときは、「それを取ってくれ!」と怒鳴るでしょう。「それをこちらに持ってきてくれませんか」なんて悠長なことは言わない。あの数日間は、そういう場面の連続だったんです。だから、私も何度か、怒鳴っていたと思います。

 映画では、「総理」もですが、吉田所長が声を荒げるシーンが何回もありました。その相手は「総理」ではなく、東電本店の緊急時対策室の人(篠井英介演じる、常務・緊急時対策室総務班・小野寺秀樹)です。吉田所長が怒鳴りたくなるのがよくわかり、「そうだ。そうだ」と共感していましたよ。

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筆者

中川右介

中川右介(なかがわ・ゆうすけ) 編集者、作家

1960年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2014年まで出版社「アルファベータ」代表取締役として、専門誌「クラシックジャーナル」、音楽書、人文書を編集・発行。そのかたわら、クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲などについて、膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、歴史に新しい光を当てる独自のスタイルで執筆。著書は『カラヤンとフルトヴェングラー』『十一代目團十郎と六代目歌右衛門――悲劇の「神」と孤高の「女帝」』『月9――101のラブストーリー』(いずれも幻冬舎新書)、『山口百恵――赤と青とイミテイション・ゴールドと』『松田聖子と中森明菜――一九八〇年代の革命』(ともに朝日文庫)、『戦争交響楽――音楽家たちの第二次世界大戦』『SMAPと平成』(ともに朝日新書)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『角川映画 1976-1986(増補版) 』(角川文庫)、『怖いクラシック』(NHK出版新書)など50点を超える。

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