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元首相は映画『Fukushima 50』をどう見たか 菅直人インタビュー【2】

ほとんどの人が「原発なしでやっていけるなら、原発はいらない」と考えているはずだ

中川右介 編集者、作家

 東京電力福島第一原発事故を題材とした映画『Fukushima 50』(若松節朗監督)で、ネガティブな人物として登場した当時の首相。しかし菅直人元首相は「非常に事故のリアリティがよく出ている」と映画を評価している。9年前の3月、東電本店との間で何があったかを語ったインタビュー【1】につづいて、映画が描いた時間のその後、事故後にはじまった菅内閣と野党自民党のせめぎ合いを振り返ってもらった。聞き手は菅元首相の著書『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』(幻冬舎新書)も担当した編集者・評論家の中川右介さん。

「大連立は加藤紘一さんを通じて何度も打診していた」

党首討論で向かい合う菅直人首相と自民党・谷垣禎一総裁(いずれも当時)=2011年6月1日

――映画は、事故については3月15日の2号機が奇跡的に助かったところがクライマックスで、あとは後日譚的に描かれて終わります。ハッピーエンドではないけれど、希望というか、明日につなげようという感じでもあります。原発事故は、いまも終わったとは言えませんが、最悪の事態が3月14日から15日にかけてだったと思います。しかし菅内閣としては、その後も、厳しい局面が続きました。原発事故への対応と同時に、地震と津波で被害にあった方の救援活動、避難している方への支援、そして復旧・復興といった課題がありました。これらに対応するため、菅さんは自民党に連立を持ちかけましたが、断られます。

菅直人元首相 地震と事故から一週間が過ぎた3月18日から19日にかけて、自民党に連立を呼びかけました。構想では、大臣は17人と決まっていますが3人ほど増やし、自民党からも入閣してもらい危機管理内閣として、この国難に対応していくことです。民主党の岡田(克也)幹事長にも相談しました。私は自民党のなかで親しかった加藤紘一さんを通して、自民党の谷垣(禎一)総裁と「一対一で会いたい」と何度か打診しました。ようやく加藤さんから、「この時間にこの番号にかけてくれ」と言われたので、そのとおりに電話をかけると、谷垣さんが出て、話しましたが、どうもその周囲に何人もいたようで、話はまとまりませんでした。

――菅さんがいきなり谷垣さんに電話で連立を持ちかけたので、「あまりに唐突だ」と谷垣さんが言って、結局、まとまらなかったと、自民党側は説明していましたが。

 いま言ったように、事前に加藤さんを通じて、何度も「会いたい」と打診していましたし、加藤さんには危機管理内閣を考えていることも伝えました。加藤さんとは、1994年の自社さ政権のとき、私はさきがけの、加藤さんは自民党の政調会長で、それ以来、親しくしていたんです。その後、私が民主党の代表になっていた1998年、小渕内閣時代の金融危機の時は、民主党が作った案を自民党が丸呑みするのなら政局にしないということで、連立はしませんでしたが、与野党が一致して危機に対処しました。そのときの自民党側の窓口が加藤さんだったという経緯もあります。

 私としては、金融危機以上の国難でしたから、自民党にも閣内に入ってもらおうとまで考えたのですが、断られたわけです。谷垣さんの周囲が反対したのでしょう。

――最初はおとなしかった自民党も、やがて菅政権への批判を強めていきました。4月29日の衆議院の予算委員会で、菅さんが事故の賠償責任は「事業者である東電が一義的な責任をもつ」と答弁したことが、「菅おろし」のきっかけのひとつと思います。

 原子力損害賠償法という法律があり、原子力事故で生じた損害については事業者に賠償責任があると定められています。ですが、「その損害が異常に巨大な天変地異又は社会的動乱によって生じたものである時は、この限りではない」という規定もありました。東電の清水社長は、今回の事故は巨大津波という天災によるものだから、東電は免責される可能性があると発言したのですが、私は、「東電を免責すると、誰が賠償責任を負うのか。国がすべての賠償責任を負うのは違うだろう」と答弁しました。もちろん、国にも責任はありますが、一義的には東電に責任があると、明確にしたわけです。

「浜岡原発停止要請で一気に逆風」

 これが4月29日で、5月6日に浜岡原発の停止を要請しました。これも大きかった。以後、一気に逆風が強くなりました。

――あれには驚きました。記者会見で発表されましたね。

 もともと浜岡は危険だと思っていたので、どうにかしたいと考えていたのですが、海江田(万里)経産大臣から「停止を要請したい」と言ってきたんです。経産省は、浜岡を、いわば生贄として差し出す

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