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「トランプ批判」は共和党のタブーになった

第2部「共和党からトランプ党への変貌―支持率9割の熱狂」(1)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

トランプ大統領が政権幹部の首切り人事を断行し続けて政権基盤を固めることができたのは、共和党支持者たちの9割近くの圧倒的な支持があるからだ。政権発足当初はトランプ氏に批判的な態度を取っていた共和党主流派の議員たちも「共和党支持者=トランプ支持者」という状況のもと、トランプ支持へと雪崩を打ち、今ではトランプ批判は共和党議員たちにとって「タブー」となった。トランプ氏が共和党支持者から熱狂的な支持を受けるようになった背景を探る。

ウクライナ疑惑

 2019年12月18日正午、米下院本会議場。下院で過半数を占める民主党トップ、ナンシー・ペロシ下院議長が登壇した。黒のスーツを身にまとったペロシ氏は、左胸に職杖(メイス)をかたどった金色のブローチをつけていた。立法府たる米下院の権威をあらわすシンボルだ。

 星条旗のパネルを横に、ペロシ氏はこう語った。

 「我々は本日、合衆国大統領に対する弾劾という下院のもつ最も厳かな権力を行使するため、この民主主義の神殿のもとに集った」

 トランプ大統領が米下院で弾劾訴追されることになる「ウクライナ疑惑」とは、トランプ氏がウクライナのゼレンスキー大統領に圧力をかけ、大統領選の有力なライバルとみられるジョー・バイデン前副大統領のスキャンダルを捜査させようとした問題である。

 2015年当時、欧米諸国や国際機関が支援するウクライナの親欧州政権では検察の腐敗などが問題となっていた。当時米副大統領だったバイデン氏は検事総長の解任を求め、翌16年に検事総長は解任される。ここで事態を複雑化させたのは、バイデン氏の息子、ハンター氏が当時、検察の捜査対象となっていたウクライナのガス会社の役員を務めていたことにある。

 大統領に就任したトランプ氏は、バイデン氏はハンター氏を守るため、検事総長を解任した、と主張した。ハンター氏が検察の捜査対象だったという証拠は見つかっていないものの、トランプ氏は正規の外交ルートとは別に、顧問弁護士のルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長をひそかに使い、ウクライナ政府にバイデン親子に対する捜査をさせることを画策。2019年7月18日、トランプ政権は突然、ウクライナへの支出が決まっていた3億9100万ドルの軍事支援を凍結した。

 軍事支援凍結はロシアと緊張関係にあるウクライナにとって大きなダメージとなる。

拡大トランプ大統領の弾劾調査を進める米下院の公聴会に出席する共和党議員ら。背後には、トランプ大統領の言動を擁護したり、下院情報委員会のシフ委員長を批判するプラカードが並べられた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年11月20日

 「ウクライナ疑惑」の核心は、米国による軍事支援凍結後1週間後の7月25日、トランプ氏と、ウクライナのゼレンスキー大統領が行った電話会談にある。のちにホワイトハウスが公開した通信記録に当時の生々しいやりとりが記されている(The White House. “MEMORANDUM OF TELEPHONE CONVERSATION” 24 September 2019.)

ゼレンスキー氏 私は防衛分野におけるあなたの多大なる支援に感謝を申し上げたい。とくに我々は我が国の防衛のために、『ジャベリン』(対戦車ミサイル)を米国から購入する準備ができている。
トランプ氏 私から一つお願いをしたい。(中略)私はウクライナにとても優秀な検事総長がいたと聞いていたが、彼が辞任に追い込まれたことはとても不公平なことだと思っている。優秀な検事総長の解任には非常に悪い人たちが関与していた、と多くの人々が言っている。ジュリアーニはとても尊敬されている人物だ。彼はニューヨークで偉大な市長であり、私はジュリアーニからあなたに電話をさせるつもりだ。
トランプ氏 多くの人々が「バイデンは息子に対する捜査を中止させた」と言っている。多くの人々がその問題について知りたがっているので、米国の司法長官に力を貸してもらえるならばありがたい。バイデンは「捜査を中止させた」と言いふらしているが、もしあなたたちが調査してくれれば……。(バイデンの言っていることは)恐ろしいことだ。
ゼレンスキー氏 (我々の)検察官についてお話ししておきたい。最初に言えることは、私は状況を理解しているということだ。我々が議会選挙に圧勝して過半数を得たことで、次の検事総長には100%、私の側の人間が就任することになっている。議会で承認されて9月には新しい検事総長の任期が始まる。新しい検事総長は、特にあなたがおっしゃった問題を調査するでしょう。
トランプ氏 ありがとう。感謝申し上げる。ルディ(・ジュリアーニ)とバー司法長官から(あなたに)電話をするように伝えておく。

 両首脳の電話会談後、トランプ政権はウクライナへの軍事支援の凍結を解除した。民主党側は「ウクライナへの軍事支援の凍結解除を、バイデン親子に対する捜査の約束と交換条件にした」と非難し、トランプ氏の行為は弾劾訴追に値すると判断した。

 トランプ氏に対する弾劾訴追決議案は、「権力乱用」と「議会妨害」の二つから成り立つ。

 「権力乱用」をめぐっては、決議案で「トランプ氏は自分が政治的に有利になるように米国の安全保障や他の極めて重要な国益を毀損し、大統領の権力を乱用した」と指摘した。また、「民主的な選挙を腐敗させるため外国政府の協力を求め、国を裏切った」と批判した。

 一方、「議会妨害」をめぐっては、政府関係者による相次ぐ弾劾調査への協力拒否がある。米下院がトランプ大統領の「ウクライナ疑惑」について弾劾調査を開始したところ、トランプ氏は行政機関や政府職員に対して調査に協力しないように指示を出した。決議では「大統領の度重なる不正を隠蔽し、下院に専属する弾劾の権限を奪う役割を果たした」と断じた(116th Congress (2019-2020). “H.Res.755.” 10 December 2019.)

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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