メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

萎縮する共和党~トランプに同調しなければ報復される

第2部「共和党からトランプ党への変貌―支持率9割の熱狂」(2)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

トランプ大統領が政権幹部の首切り人事を断行し続けて政権基盤を固めることができたのは、共和党支持者たちの9割近くの圧倒的な支持があるからだ。政権発足当初はトランプ氏に批判的な態度を取っていた共和党主流派の議員たちも「共和党支持者=トランプ支持者」という状況のもと、トランプ支持へと雪崩を打ち、今ではトランプ批判は共和党議員たちにとって「タブー」となった。トランプ氏が共和党支持者から熱狂的な支持を受けるようになった背景を探る。

共和党予備選の中止

 共和党支持者のトランプ氏に対する圧倒的な支持に直面し、共和党予備選前に候補者指名争いから撤退に追い込まれた挑戦者もいる。

 マーク・サンフォード元サウスカロライナ州知事は、知事を2期務めたのち、下院議員も6期務めた共和党のベテランだ。下院議員時代は保守強硬派の議員グループ「フリーダム・コーカス(自由議員連盟)」に所属し、ウェルド氏と同じように財政保守主義者としても知られていた。一方、共和党内では「反トランプ派」としても目立ち、テレビに出演してはトランプ大統領への批判を繰り返してきた。

 2019年9月16日、サンフォード氏は地元サウスカロライナ州コロンビアの州議会議事堂前で記者会見を開いた。

 サンフォード氏はトランプ氏の全身写真をかたどったパネルを横に、熱心に米国の抱える借金がいかに大きな負担になるかという問題を論じた。その後、記者団とのやりとりの中で「共和党員にとって財政保守主義は最も重要な政策理念だが、なぜ9割近くの共和党支持者がトランプ氏を支持すると考えるか」と尋ねると、サンフォード氏は「政治家とはすべて相対的に評価されているものであり、どこにも完全な候補者はいないからだ(マーク・サンフォード氏へのインタビュー取材。2019年9月16日)」と答えた。

米大統領選で共和党候補に名乗りを上げていたマーク・サンフォード氏は記者会見で、トランプ大統領をかたどったパネルの横で、米国の借金について訴えた=2019年9月16日、園田耕司撮影

 サンフォード氏としては、保守政治家である自身が出馬することで、消極的なトランプ支持者が自分へと乗り換えてくるだろうという読みがあったとみられる。

 しかし、サンフォード氏はそのとき、立候補表明時点では予想していなかった大きな困難に直面していた。地元のサウスカロライナ州を始め、アリゾナ、カンザス、ネバダの四州の共和党指導部が相次いで予備選の中止を決めたのだ。

 地元の共和党指導部からすれば、党内支持率が9割近くのトランプ氏が勝つことが確実だからという主張だが、サンフォード氏の立場からすれば土俵にすら立てない状況に陥りつつあった。

「同調しなければ報復される」

 サンフォード氏は9月13日、ビル・ウェルド氏、同じく共和党の指名を目指していたジョー・ウォルシュ元下院議員の3人の連名で米ワシントン・ポスト紙に「共和党予備選中止は致命的な誤りだ」という意見記事を寄稿し、「共和党は我々の米国の伝統よりも、ロシアや中国にもっと似せた指名手続きをとるような政党に本当になりたいのか?」と訴えた(Sanford, Mark, Walsh, Joe and Weld, Bill. “We are Trump’s Republican challengers. Canceling GOP primaries is a critical mistake.” The Washington Post 13 September 2019.)。

 しかし、サンフォード氏らの訴えは無視され、その後もほかの州で予備選中止の決定は相次いだ。

 サンフォード氏にとってとどめとなったのは、2020年2月に予備選が行われる予定のニューハンプシャー州で地元回りをしていた際、大統領選をめぐる共和党のイベントに出席してあいさつする機会を求めたにもかかわらず、拒否されたことだ。

 サンフォード氏は2019年11月11日、自身のフェイスブックに投稿してこう嘆いた。

 「(トランプ氏と)異なる価値観をもつ人物が地元の小さな集会にいるというだけで、(主催者たちは)だれかを怒らせてしまうと怖がっているのだろうか。これは共和党予備選が中止になっている事態を鏡のように映し出している。共和党は一体どうなってしまったのか」

 サンフォード氏は翌12日、共和党候補者指名争いから正式に撤退することを発表した。

トランプ大統領が弾劾裁判で無罪となった翌日、ホワイトハウスでトランプ氏の登場を待つ閣僚メンバーや共和党議員たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年2月6日

 共和党議員や地元の党執行部の関係者が足並みをそろえてトランプ氏を擁護する理由について、米ブルッキングス研究所のマーガレット・テイラー研究員は「同調しなければ、トランプ氏から『報復』を受けると恐れているからだ」と語る(マーガレット・テイラー氏へのインタビュー取材。2019年12月16日)。

 2020年11月の大統領選と同時期に上下院選も行われる。共和党支持者たちの間でカリスマ的な人気を誇るトランプ氏から批判されれば、共和党議員たちはとても選挙を戦うことができなくなる。つまり、トランプ氏に逆らうことは政治的な死を意味するというわけだ。

 トランプ氏の報復には前例がある。

・・・ログインして読む
(残り:約2281文字/本文:約4382文字)