第2部「共和党からトランプ党への変貌―支持率9割の熱狂」(3)
2020年03月31日
トランプ大統領が政権幹部の首切り人事を断行し続けて政権基盤を固めることができたのは、共和党支持者たちの9割近くの圧倒的な支持があるからだ。政権発足当初はトランプ氏に批判的な態度を取っていた共和党主流派の議員たちも「共和党支持者=トランプ支持者」という状況のもと、トランプ支持へと雪崩を打ち、今ではトランプ批判は共和党議員たちにとって「タブー」となった。トランプ氏が共和党支持者から熱狂的な支持を受けるようになった背景を探る。
トランプ氏の力の源は、熱狂的な支持者の存在がある。そこには、オバマ政権時代に生まれた草の根保守「ティーパーティー(茶会)運動」からの流れがある。
政府の歳出削減を求め、「小さな政府」の実現を訴える茶会運動は、共和党内で最強硬派の立ち位置にあり、共和党主流派を「エスタブリッシュメント(既得権益層)」と敵視していた。
茶会運動は2008年秋のリーマンショック後、オバマ政権の打ち出した巨額の公的資金注入による住宅救済策への反対運動が全国各地に広がったことをきっかけに組織化された。2010年の中間選挙で共和党が下院で過半数を奪う原動力となり、草の根保守運動としての存在感を見せつけることになる。
ジェニファー・ステファノ氏は、茶会運動の指導者の一人で、有力な茶会運動団体「アメリカンズ・フォア・プロスペリティ」の副会長を務めた草の根政治活動家だ。
ペンシルベニア州の自宅で取材を受けたステファノ氏は、今でも当時の熱狂ぶりは忘れないと語る(ジェニファー・ステファノ氏へのインタビュー取材。2019年11月27日)。
2010年11月、首都ワシントン中心部の緑地帯ナショナルモール。全米各地から数千人が集まり、「小さな政府」の実現を求めて声を張り上げた。ステファノ氏はSNSを駆使してペンシルベニア州からの参加者を集め、30台近くのバスを手配して一緒にワシントンにやってきた。
「我々には政府の企業救済に激しい怒りがあった。『企業の失敗は企業自身の問題だ。納税者のお金を奪うべきではない』と」。ステファノ氏はそう振り返る。
ステファノ氏は「政府が存在する唯一の理由は、個人の権利を守るため」という政治信条をもつ。
「個人の権利は神から与えられたものだ。もしあなたが無神論者であれば、その権利は生まれた時から持っている自然権ということもできる。政府は人々に権利を与える存在ではなく、権利を奪う存在なのだ。だからこそ暴政が起きないようにチェック&バランスの機能する政府だけが唯一の正当性をもつのだ」
ステファノ氏の考えは当時の茶会運動の核心部分といえる。彼らにとってみれば、オバマ政権が打ち出した医療保険制度改革や大企業救済策は、政府を肥大化させ、政府の暴政を生み出しかねない。決して許すことのできない政策だった。
米ギャラップ社の世論調査によれば、当時、米国人の三割前後が茶会運動を支持し、政治運動としてのピークを迎えた(Jones, Jeffrey M. “Americans See Positive, Negative Effects of Tea Party Movement.” Gallup 4 November 2010.)。その後、いったん停滞したとみられていた茶会運動の支持者たちを引きつけたのが、トランプ氏だ。
ステファノさんは「茶会運動の支持者の90%はいま、トランプ氏の支持者になった」と語る。
2016年大統領選では当初、茶会運動の支持者は、伝統的価値観を重視する社会保守派のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)への支持が強かった。しかし、ステファノ氏はトランプ氏が共和党候補者として共和党全国大会で候補者指名を獲得したのち、「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」という主張に次第にひきつけられたという。
「我々草の根運動の人々にとって、米国とはだれにとっても自由と機会が保障された国だった。しかし、オバマ政権のもとでその自由と機会が失われつつあると感じていた。そんなとき、多くの人々はトランプ氏こそ、この間違った方向を変える人だと感じたのだ」
ステファノ氏がトランプ氏の就任後の政策として最も評価するのが、最高裁判事に保守派を任命したことだ。
トランプ氏は保守系のゴーサッチ氏とカバノー氏を任命することに成功し、最高裁判事(定数9)は現在、保守系判事が過半数を占めている。最高裁は人工妊娠中絶や同性婚、銃規制といった保守派とリベラル派の価値観が激しく対立する社会問題が最終決着をつける場であり、保守系判事が過半数を占めたことは、とくに茶会運動支持者のような保守強硬派にとっては大きな意味をもつ。
また、ステファノ氏によれば、茶会運動支持者たちがトランプ氏の政策で評価しているのが、壁建設を始めとするトランプ氏の不法移民対策にあるという。
「私は移民の受け入れを支持しているし、大勢の人々に米国に移住してもらいたいと思っている」
注意深く言葉を選びながら、ステファノ氏は「しかし……」と言葉を継いだ。
「合法的に移住した人々にとって、あまりにも不公平だと思える状況を見てきたのも事実だ。正しい移民政策が機能しなければ、米国人がそのツケを支払うことになる。その結果、経済的にも悪影響を与えることになるだろう」
ステファノ氏によれば、オバマ政権の移民政策に懸念をもつ人々がトランプ氏の主張に同調して投票したという。ただし、現在の移民政策に不満をもつ人々たちも元をたどれば移民の子孫であり、「彼らは人種差別主義者や反移民主義ではない」と念押しした。
一方、ステファノ氏個人はトランプ政権の歳出拡大路線に不満をもっており、もともと茶会運動が掲げていた「小さな政府」の訴えはいまでも正しかったと考えている。
しかし、それでもステファノ氏がトランプ氏を支持するのは、トランプ政権の財政政策を民主党のものと比較したとき、トランプ政権の方が民主党よりマシな政策だと考えているからだという。
「民主党の方がトランプ政権よりもっと悪い。彼らは米国市民を圧迫するレベルまで政府を肥大化させるつもりだろう。彼らは米国をベネズエラのような社会主義国に変えたいのだ」と語り、民主党政権の実現に強い危機感を示した。
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