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資本主義は変貌したか

現代資本主義の「国家資本主義化」という世界の趨勢に日本は伍していけるか

花田吉隆 元防衛大学校教授

EUを揺るがした中国の巨大鉄道事業の誕生

 今年の2月、アルストム(仏)とボンバルディア(鉄道部門、加)の統合が発表された。現在、鉄道分野で、アルストムは世界3位、ボンバルディアは4位で、両社が統合すれば世界2位の巨大企業が誕生することになる。統合作業はこれから順次進められ2021年6月にも完了の見込みという。

 この統合話には前史がある。話は2015年に遡る。この年、世界の鉄道業界を揺るがす出来事があった。

 中国の鉄道事業が統合し「中国中車」が生まれた。その規模、実に、売上高2兆5500億円(2018年)という大きさ。シーメンス(独、世界2位)が1兆1000億円、アルストムが1兆円、ボンバルディアが9900億円というから、突如としてガリバーが上陸してきたようなものだ。中国中車は、その巨大な体力にものをいわせ、盛んに欧州市場や、それまで欧州が得意としていたアフリカ市場に進出し始めた。ライバルたちの狼狽ぶりが目に浮かぶ。

 このままではじり貧、として欧州企業の統合話が持ち上がった。シーメンスとアルストムの統合だ。交渉の結果、話はまとまり、ここに晴れて中国中車に対抗する売上高2兆1000億円の企業が誕生するかに見えた。

 ところがこれに待ったをかけたのがEUだ。EUのマルグレーテ・ヴェスタガー副委員長(競争政策担当)はやり手だ。EU内の自由競争を守るため、これまでも独占や寡占を容赦なくやり玉に挙げてきた。今回、売上高2兆円規模の巨大企業が生まれればEU域内の競争が阻害される、これは認可できない、と頑なに首を縦に振ろうとしない。EUが了解しない統合は陽の目を見ることがない。2017年2月6日、とうとう両者の統合はご和算になってしまった。

 これに怒ったのがドイツのペーター・アルトマイアー経済相だ。

 ドイツはもともと政府が市場に口を挟むのを嫌う。かつてルートヴィッヒ・エアハルト経済相が主唱した「社会市場主義」は、社会主義的色彩を帯びるとしても基本は市場主義だ。ドイツは戦後ずっと、市場の自由に任せることが経済政策の基本方針だ。ところが、近年、そうのんびりしたことを言っていられなくなる。

 2016年、ドイツの大手ロボットメーカー、クーカが中国の家電企業、美的集団に45億ユーロで買収される。ドイツ国内は激震に見舞われた。最先端技術が中国の手に落ちた。うかうかしていたらドイツの基幹産業が次々と中国支配下にのみ込まれてしまう。

 2017年2月7日、アルトマイアー経済相は「国家戦略2020」と題する文書を公表した。電気通信、自動車、その他、最先端技術を擁する産業を、その存続が「ドイツの政治的、経済的国益に直結する産業」に指定、これら「重要なハイテク企業」が外国に買収されそうになれば、阻止に向け公的基金から資金拠出を行う、というのがその内容だ。

 続く2月19日、アルトマイアー経済相は、折から来独中のブルーノ・ルメール仏経済相と共に「21世紀を勝ち抜くために」と題する共同計画を発表、独仏によるAI技術の共同開発、次世代燃料電池開発に向けた17.5億ユーロの共同基金創設等を明らかにした。

 その際、双方の経済相は、「EUの独占禁止ルールの見直しと各国政府の権限強化」の必要性も共同計画に盛り込んだ。中国の脅威が迫る中、古典的な独占禁止政策を頑なに守ろうとするEUの姿勢は国益に反する、それならEUのルール自体を変えるしかない、というのだ。それを独仏の経財相が揃って共同記者会見で発表した。

 シーメンス・アルストムの統合話は結局頓挫したが、アルストムは黙っていない。ならば、と相手を替え、話を進めたのが今回のボンバルディアとの統合だ。ボンバルディアはカナダだからEUの競争政策にふれないのかどうか、EUの対応が注目される。

 中国の台頭を前に、防衛策を講じようとする欧州各国と、これに待ったをかけようとするEU。しかし、一昔前なら軍配は文句なくEUに上がっただろう。そもそもEUは、域内の自由競争を促進するため創られた。それに反する行為を取り締まる権限をEUに与えたのは加盟各国だ。各国は、今は中国の台頭を受け事情が変わった、という。

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筆者

花田吉隆

花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授

1953年生まれ。在スイス大使館公使、在フランクフルト総領事、在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、現在、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」(創成社)「スイスが問う明日の日本」(刀水書房)等。

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