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新型コロナウイルス対策で加速する韓国政府はコーナーを曲がりきれるか

伊東順子 フリーライター・翻訳業

 この『論座』で連載していた記事がまとまって新書になった。大変うれしいことなのだが、原稿を印刷所にいれる直前、「あとがき」にこんなことを書いた。

 「旧正月を明けた韓国、大きな話題は新型コロナウィルスだ。初期段階から政府や国民に緊張感があるのは、MERS(マーズ)の痛恨の記憶によるだろう」。さらに、「彼らはすでに飛び出したランナーであり、加速もついている。このままコーナーをうまく回りきれるか」(拙書『韓国 現地からの報告――セウォル号から文在寅政権まで』ちくま新書)

 これを書いたのは2月初旬だったが、その後の展開はいろいろな意味で予想通りとなった。韓国政府はものすごい速度と集中力のまま、コーナーに突入したのだ。

凄まじい速さと団結力

 「なんか、韓国すごくない?」

 日韓を行き来する我々の間で、そんな声が囁かれたのは2月上旬頃からだったと思う。とくに旧正月の休暇で帰国した在韓ビジネスマンとその家族は、日韓両国の社会的空気の差にかなり戸惑った。

 「韓国の人たちの方がマスクしているよね。今まではこんなことなかったのに……」

 中国発の新型コロナウイルスの感染が発見されたのは、日韓両国でほぼ同時期だった。

1月16日 日本で武漢から6日に帰国した人の感染を確認
1月20日 韓国でも武漢から入国した人の感染を確認

 その後、日本ではバス運転手やバスガイドへの感染が発覚し、同じ頃から韓国でも武漢帰りの人以外への感染が確認されていた。

 「中国からの入国者を制限するべきだ」――日韓両国でそんな議論が起こったが、安倍政権も文政権もそれはせず、そのまま旧正月(春節)連休に突入した。日本の観光地や百貨店は中国からの観光客で賑わっていたが、その頃の武漢はすでに事実上の封鎖状態となっていた。そこからの「退避」が始まったのも、日韓でほぼ同じ日だった。

1月29日 チャーター機で武漢在住の日本人の第1陣が帰国
1月30日 チャーター機で武漢在住の韓国人の第1陣が帰国

 ただ、この前後から韓国政府の対応はぐんぐんスピードアップしていった。感染症の危機段階を第2段階の「注意」から「警戒」に引き上げ、それとともに大統領以下政府関係者の人々の服装も変化した。記者会見や会議の様子を伝えるニュースには、常に黄色の防災ジャンパー姿の人々が登場し、非常事態の緊張感が伝わってくる。

 「新型コロナ確診者」(韓国では個人に「感染者」という言葉は使わない)は第1号から順番に番号をつけられ、それぞれの詳しい移動経路が次々に明らかにされた。その情報は国民にも外国人居住者にも観光客にももれなく公開され、人々は「近づいていけない場所」を知ることができた。

 そんな中、ロッテ百貨店本店が2月7日から3日間臨時休業した。確診判定を受けた患者さんの1人が立ち寄ったからだ。また一部の幼稚園や小中学校では休園や休校が始まり、またこの2月上旬に集中する卒業式なども、保護者の参加を認めない等、大幅に縮小された。

ソウル郊外の高陽市では、新型コロナウイルスの検査にドライブスルー方式が登場した=2020226同市提供拡大ソウル郊外の高陽市では、新型コロナウイルスの検査にドライブスルー方式が登場=2020年2月26日、同市提供

 在韓日本人は「韓国の本気度」に唸った。

 「韓国は今のところ新型コロナウイルスの封じ込めに成功している。ビジネスや観光旅行、出稼ぎ中国人(朝鮮族)、留学生など中国との往来、接触が日本よりはるかに多い韓国だから、よくやっているといっていい」(2020年2月17日『産経新聞』電子版「緯度経度」)

 いつもは韓国に苦言の多い在韓のベテラン記者さえが、韓国政府を称賛するほどだった。特にこの記事の最後にある「ここは安倍晋三政権も文政権に学ばなければならない」という一文は韓国メディアに大歓迎され、文在寅支持派に人気のラジオ番組などでも引用されるほどだった。

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筆者

伊東順子

伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業

愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国 現地からの報告――セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)、『もう日本を気にしなくなった韓国人』(洋泉社新書y)、『ピビンバの国の女性たち』(講談社文庫)等。

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