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新型コロナがパンデミック。WHOは今こそエりをただせ!

科学的判断より対中国の政治的判断を優先?初動の非を率直に認めてこそ活路が

田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大について「パンデミック」であるとの認識を示した世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長(右)=2020年3月11日、ジュネーブ、吉武祐撮影

 世界保健機関(WHO)は3月11日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大について、ようやく「パンデミック」であるとの認識を示した。この期に及んでもなお断定的でなく、「と言える」と腰がひけた表現なのが気になる。

 その際、テドロス事務局長は、中国国外で「心配なくらい対策が実施されていない」から感染者が13倍に増加したと嘆き、「深い懸念」を示した。彼は感染者が増加した主たる理由が、自身の「科学的判断より政治的判断を優先する」ところにあることに気がついていないのか。ひょっとすると、気がついてはいるものの、自分やWHOに向けられている大きな批判も、中国を盾にすれば大丈夫だと思っているのかもしれない。

半月遅れのWHOの「緊急事態宣言」

 そもそも1月30日にWHOが発出した「緊急事態宣言」は、少なくとも半月遅かった。1月22、23日に開かれた専門委員会の後には、さすがに宣言されると思ったが、それから1週間も先送りされた。

 テドロス氏の言及した「心配なくらい対策が実施されていない」状態は、彼自身が最初に流行した中国の都合を忖度(そんたく)したか、中国を擁護するよう要請を受けたかで、宣言を出すタイミングを逸したからではないか。

 テドロス氏が1月28日にわざわざ北京に飛び、習近平国家主席と会談したうえで、翌々日に緊急事態宣言の発出に踏み切っている事実は、そうした疑念を裏書きするようみみえる。

根が深いテドロス氏と中国との関係

 2月2日にたまたまテレビに出演していた私は、「緊急事態法案は1週間遅い。感染拡大を阻止するには、後手の対応が続くWHOの体制を変える必要がある」と発言した。私がそう受け止めたのは、かねてからWHO、そしてテドロス氏と中国との“癒着関係”を注視してきたからである。

 昨年6月、中国は国連食糧農業機関(FAO)の事務局長を獲得した。同じく国連の機関であるWHOは2016年に中国の主導で、有数の“親中国”であるエチオピアで外相を経験したテドロス氏を事務局長に据えた。事務局長はこの機関の事実上のトップであり、代表だ。

世界保健機関(WHO)が中国へ派遣した専門家調査団の代表ブルース・エイルワード氏。図表を示しながら、記者会見で中国での活動について語った=2020年2月25日、スイス・ジュネーブのWHO本部、吉武祐撮影
 今回の新型コロナウイルスの発生源は中国であろう。世界のほとんどの国、ほとんどの人がそう思っている。それを科学的根拠を示して覆すことができない限り、厳粛な事実として歴史に記される。

 SARS(重症急性呼吸器症候群)の例を挙げるまでもなく、この種の疾病があると、まず中国に目が注がれる。だから、WHOの動きが政治的に見えると、まず中国が不信感を持たれる。本来、WHOは「科学的知見」によって運営されるべき非政治的な機関のはずだ。政治色は徹底して払拭(ふっしょく)されなければならない。

習近平主席の事情がWHOの対応を遅らせた?

 メディアの報道(「中国、WHOに21億円寄付 新型コロナ対策で『お返し』?」時事ドットコム3月9日)によると、「中国の陳旭駐ジュネーブ国際機関代表部大使はこのほど(7日)、WHOのテドロス事務局長と会談し、中国政府がWHOに2000万ドル(約21億円)を寄付することを決めた」という。

 国際社会は、この時期の寄付は、新型コロナウイルスへの中国の対応に関係しているとみる。テドロス事務局長が「中国は時宜にかなった有力な措置を講じている」などと、不自然なほど大仰な賛辞を繰り返すことへの“お返し”という見立てである。

 確かにこの間の中国とWHOとの関係はどうみても不自然だ。

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