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新型コロナウイルス禍、安倍首相の「記者会見もどき」

[179]福島原発、首相記者会見、『サマショール』ポストトーク……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

2月26日(水) 朝、7時半にホテルをチェックアウトして、廃炉国際共同研究センターへと向かう。あいにくの雨。だが土砂降りではない。何とかなるだろう。

 M記者、Cディレクター、Oカメラマン、VEのSらと合流して原発構内へ。今回の取材箇所の選択には自分はほとんど関与していない。ただ汚染水の状況には興味があった。M記者のリクエストで、1・2号機の中操(ちゅうそう)=中央制御室、コントロール・ルームもみることとなった。炉心溶融事故が起きた当時のほぼそのままの状態だという。最も古い1号機の計器はゼネラル・エレクトリック(GE)からの直輸入のままなので、表示は全部英語になっていた。

 この日にたまたまIAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長が福島第一原子力発電所を現地視察するというので、ラッキーだった。彼に直接取材ができるからだ。時間的にもギリギリ間に合う行程だった。

 原子力発電所構内の取材はいまだに非常に厳しい手続きを伴う。とりわけ、防護服、靴、マスク、ゴーグル、手袋の着脱は、それだけでかなりの時間を要する。区域によってどういう服装をするかが異なる。折からのウイルス禍で、防護服の供給が滞っている。タイベックのあのオーバーオールも中国が主要な生産場所なのだ。東電はそれで服装の規定を「柔軟化」した。そういうことなのだ。

 今回の構内取材で一番「不条理」を感じたのは、1号機から4号機を見渡せる高台でのリポートだった。東電の係官たちから「ここはマスクは不要です。顔出しで大丈夫です」と言われた。そこで記者リポートをしようと思って高台に近づいた。この場所の放射線量はこの日は80~100マイクロシーベルト/時あった。局から持参した線量計がピーピー鳴りだした。それで以下のような内容のリポートをした。

 「1号機から4号機までが見渡せる場所ですが、廃炉作業はスピードアップしているとは言えません。ここではマスクを外していいと言われて、こうしてリポートをしているのですが、何だか非常に奇妙で複雑な思いがします。というのは、原発の外ではみんなマスクをしていました。コロナウイルス対策です。目に見えないリスクという点ではウイルスも放射線も共通しています。ここでマスクを外す意味がどれほどあるのか。安全は誰が何のためにどのような基準で誰に対して決めるか。この場所でそのことを考えさせられます」

拡大マスクなしで福島原発のリポートをする筆者=筆者提供

 原発構内は撮影規制が非常に厳格で、1回目の撮影後に東電係官から映してはいけないものが写っているおそれがあると指摘され、念のため2回目を撮った。2号機と3号機のあいだの道路でも取材をして、さきほどの高台を見上げると、IAEAのグロッシ事務局長の一行が視察をしていた。グロッシ氏は三つ揃えのスーツ姿。たくさんの同行記者たちが周りを取り囲んでいた。汚染水タンクや海側の防潮堤などを撮って、急いでIAEAグロッシ事務局長の取材へと転進する。

 ちょうどグロッシ氏は東京電力幹部職員への「激励の訓示」をするところだった。当初は東電職員が大勢参列する予定だったが、コロナウイルス禍で幹部職員だけに縮小されたのだという。友好的な激励の集い。考えてみると不可思議な光景でもある。IAEAとはどんな組織であるべきなのか。

 その後に、ぶら下がり取材の機会があるというので移動して待つことにする。大勢の報道陣が待ち構えていたが、そこでまた不可解なことが起きた。背中に「経産省」という文字の制服を着た広報担当職員が、記者たちと事前に打ちあわせをしていたのか、記者たちの質問の順番を予め決めて仕切ろうとしていた。これは何なんだ? 僕らは原発取材を終えて参加したので、そんな「仕切り」なんぞをやられてはたまったもんじゃない。それでこちらも質問したいとアピールしたところ「何を質問するんですか」と言う。何でそんなことをその人物に伝えなきゃならないのか。わけがわからない。ところが、まわりの記者たちはおとなしくそれに従っているのである。地元の福島のテレビ局の若い女性記者が近づいてきて「地元局なので最初に質問をすることになっています」と僕に言ってきた。何だか気まずいなあ。

 グロッシ事務局長がやってきた。聞きたいことは汚染水の海洋放出に対するIAEAの姿勢だ。そこで、拙い英語で必死に聞いた。海洋放出は賛否が分かれている。地元漁民や科学者の一部は反対している。IAEAは原則的には海洋放出案を支持するのか? するとグロッシ事務局長は滔々と答えを述べたのだが、決めるのは日本政府、IAEAとしては科学的な根拠に基づいて技術的なサポートをする、と。だが、皆さん、自然界には放射性物質がそもそも多く存在しているだの、除染プロセスは適切に行われているだの、国際基準にも合致しているだのと一気に述べた。結局、グロッシ氏の訪問は海洋放出案に「お墨付き」を与える効果を及ぼしたということではないのか。

=筆者提供拡大福島第一原発を訪れたグロッシIAEA事務局長=筆者提供

 バスを乗り込む所まで追いかけて「IAEAをrecalibrate(再測定する)と就任会見で言っていたが、本当にそうなるように見ている」と伝えた。精一杯の皮肉を込めたつもりだったが。その後、東電の映像チェックの結果を聴いてガーンとやられた。例の高台でのリポートの映像の一部に撮影不可のものが写っていたとクレームがつき、東電職員によって全部消去されたのだという。ええっ? 泣きたい気分だ。今日のリポートで一番言いたかった部分だったので。

 その後、Jビレッジに移動したら、グロッシ事務局長一行が訪れていた。お付きの人々と記念撮影にいそしんでいた。何だかお祭り気分だ。アルゼンチン大使館が面倒をみているのだろうか。お抱えのカメラマンがいた。映像消去のショックでビールを飲みたくなった。M、Kと缶ビールを胃に流し込んだ。いわきから東京に戻る。特急ひたちは空いていた。乗客はみんなマスクをしている。

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筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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