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スマートフォンによる電子投票は実現しないのか

世界の潮流に遅れた日本 テクノフォビアを打ち倒せ

塩原俊彦 高知大学准教授

 電子投票といっても、投票所に出向いてタッチパネルなどに触れて投票するものや、インターネットを通じて各人がパソコンやスマートフォンを操作して投票するものがある。拙著『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ新書)で指摘したように、日本の電子投票制は世界の潮流からみると、まったく遅れている。

 エストニアは2005年の地方議員選、2007年の国会議員選でインターネットを通じた電子投票(i-voting)を実施済みであり、2018年9月時点で、世界では図に示したようなさまざまな国の国会や地方議会でi-votingが導入されている。

 つぎの課題はスマートフォンを使ってより簡単にi-votingを可能とすることだろう。その課題にこたえるために、米国ではスマートフォンを利用した投票が実際にすでに実施されている。

 取引履歴を仲間同士で確認する台帳のネットワーク、ブロックチェーンに基づくモバイル投票アプリ、「Voatz」(ヴォ―ツ)が2018年の中間選挙においてウェスト・ヴァージニア州で採用され、同州での連邦・州・自治体の選挙で導入済みだ。ほかにも、オレゴン、ユタ、ワシントン州の5地区でも実証済みだ。2016年のマサチューセッツ民主党大会や同じくユタ共和党大会でも使用された。ヴォ―ツ自身は、2016年6月以降、50以上の米国での選挙で採用され、8万人以上が投票した実績を表明している。

 2020年2月3日、ウェスト・ヴァージニア州のジム・ジャスティス知事は身体障碍者がスマートフォンなどを利用して投票できるようにする法律に署名した。ユタ州ユタ郡は2019年10月、自治体の投票で軍人と海外居住者にのみ認められていたスマートフォンのアプリを使った投票を身体障碍者にまで広げることを決めた。

投票アプリ「ヴォ―ツ」の脆弱性

 しかし、2020年2月、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームがヴォ―ツの脆弱性に関する報告書を公表したことから、スマートフォンによる電子投票に暗雲が漂いはじめている。

 おりしも、2月4日に開催されたアイオワ州での民主党員集会で、投票の集計結果の取りまとめが大幅に遅れる事態が起きた。投票アプリ開発は、2016年の大統領選のヒラリー・クリントン候補の選挙スタッフが設立した「シャドー」が手掛けたものだが、投票の電子化への不信感が高まってしまった。

 2月22日にネヴァダ州で開催された民主党員集会でも、当初はシャドーのアプリが利用されることになっていた。しかし、結局、シスコシステムズのセキュリティ・ソフトを装備したiPadとグーグルのソフトウェアが利用される羽目に陥った。

 MIT報告は、ブロックチェーンやバイオメトリクスという生体認証、さらに暗号化を組み合わせたヴォ―ツといえども、「安全ではない」と結論づけている。「ヴォ―ツには悪意をもった第三者がユーザーの投票を変更したり、停止したり、公開したりできる脆弱性がある」ことを見つけたというのだ。

 これに対して、ヴォ―ツはブログで反論した。①MITの研究者が行ったアンドロイド版投票アプリが古く、実際の投票で使用されたものではない、②アプリを調べるに際して、そもそもアマゾン・ウェブ・サービスとマイクロソフト・クラウドプラットフォーム(Azure)にあるヴォ―ツのサーバーに接続できていない(合法的な投票者であることを詐称させないための本人確認する層を通過できていない)、③ヴォ―ツのサーバーにアクセスできないまま、ヴォ―ツのサーバーの想像上のバージョンをでっち上げて議論している――というのが反論だ。

i-votingに必要な条件

 インターネットを使ったi-votingを導入するには、①投票者の本人確認、②投票者の利用するためのソフトウェア規格がすべての投票者にとって理解・使用しやすい、③投票者が票を投じる前に確認する機会を設ける、④投票後、投票者が正しく

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