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トランプの「米軍撤退論」の先にあるもの

第3部「カム・ホーム・アメリカ―新たな孤立主義の台頭」(4)

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

 トランプ大統領の掲げるアメリカ・ファーストは、米国の利益を最優先にした孤立主義の影が色濃くつきまとう。トランプ氏は「終わりなき戦争を終わらせる」をスローガンに掲げ、中東地域からの米軍撤退を訴える。背景にあるのは、9.11(米同時多発テロ)以降のアフガニスタン戦争やイラク戦争などの泥沼化した一連の対テロ戦争に疲弊した米国内の世論だ。トランプ氏を突き動かす「カム・ホーム・アメリカ(アメリカに帰ろう)」のムーブメントを解き明かす。

イラン司令官殺害、米軍撤退と大きな矛盾

 トランプ大統領のソレイマニ司令官の殺害命令は、戦略なき衝動的な判断だった、という分析だけでは片付けられない。トランプ氏の一連の対応には、前述のウォルター・ラッセル・ミード氏による米外交伝統の4類型の一つ、ジャクソニアンとしての特徴をみることができるからだ。

 ミード氏の定義によれば、ジャクソニアンにとって政府の最も重要な役割とは、米国民の直接的な身体の安全を守ることにある。ジャクソニアンは、米国は外国での戦争に関わるべきではないと考える一方、もし他国が米国を攻撃してくれば、戦争で勝利する以外に道はないとも考え、軍事力を信奉している。

 トランプ氏はこれまでイラン側の挑発的な行動に対して軍事力を使うことに終始消極的だった。だが、米国人殺害や自国の大使館への襲撃があったとたん、歴代政権が見送ってきたソレイマニ司令官の殺害という最も強硬な軍事手段に選んだのは、ジャクソニアン的な判断ということができる。

 しかし、いくらトランプ氏が米国人の利益を最優先として行動したと主張してみたところで、今回のソレイマニ司令官殺害はトランプ氏の国際協調を無視した単独行動主義であることは論をまたない。

拡大ホワイトハウスでイランに関する声明を発表するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年1月8日

 そもそも米イランが報復の連鎖を重ねるほど両国間の緊張が高まった最大の原因は、トランプ氏が2018年5月、イランとの国際的な核合意から一方的に離脱したことにある。

 欧州諸国はトランプ氏の意向に強い懸念を示してきたが、トランプ氏はこうした国際社会の声に省みることなく、一方的に国際的な約束を反故にしてしまった。その結果、イランは態度を硬化させてウラン濃縮活動を拡大させる動きを見せ、中東地域の緊張はさらに高まる結果となった。

 今回のイランのミサイル攻撃では、革命防衛隊が誤ってテヘラン近郊でウクライナ国際航空の旅客機を撃墜し、乗客乗員176人全員が死亡するという悲劇も起きている。ミサイルを誤発射したイラン側に最大の責任があるが、そもそもの米イランの新たな対立の原因をつくったトランプ氏にも、ウクライナ機撃墜事件をめぐる責任の一端はあるといわざるを得ない。

 一方、トランプ氏にとってソレイマニ司令官殺害をめぐる最大の誤算は、「終わりなき戦争を終わらせる」と中東地域からの米軍撤退を掲げているにもかかわらず、逆に中東地域に米軍部隊の増派をしなければならなくなったことだ。

 トランプ政権は、ソレイマニ司令官の殺害直後、米軍部隊3500人を中東地域に増派する方針を決めた。イラン側からの反撃に備えて米軍を増強しなければいけない事態となったわけだが、今回の米軍部隊の増派はトランプ氏の中東地域からの米軍撤退方針と大きな矛盾をはらむ。

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筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

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