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公文書改竄で自殺した近畿財務局職員の「手記」を手に、私は石破茂に会いに行った

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

 3月18日午後2時前、私は東京の地下鉄半蔵門線、永田町駅構内を第2衆議院議員会館を目指して急ぎ足で歩いていた。地下鉄のホームには、永田町や霞が関に用事があるネクタイにマスク姿の人たちが思い思いに立っていた。

 少なからぬ人が手に携えていた雑誌は、この日売り出したばかりの『週刊文春』だった。そのことは私にはすぐにわかった。

 なぜなら私自身それを手に丸めて持っていて、地下鉄の中で熟読してきたからだ。

 お目当ての記事はもちろん、森友事件に絡む公文書改竄問題に巻き込まれて自ら命を絶つことになってしまった近畿財務局職員の「手記」全文。

 日本の政治経済の中心地、永田町や霞が関の住人たちがいかにこの問題に強い関心を持ち続けているか。そのことは、特に第2次安倍政権以降の政界関係者、官僚たちでなければわからないかもしれない。

 自ら命を絶つかどうかは別にして、同じような境遇に落とされる可能性は、この政権以前に比べればはるかに高まっているからだ。

2018年総裁選でのこと

 私が約束の午後2時前に訪れた場所は、元自民党幹事長、石破茂の部屋。岩波書店の月刊誌『世界』5月号(4月8日刊行)のインタビューのためだ。

 インタビューをきっかり1時間で終えた私は、石破に『週刊文春』を渡し、後ほど電話で「手記」の読後感想を聞かせてくれる約束を取り付けた。

 私は、石破には「手記」の感想をぜひ聞いてみたいと思っていた。なぜか。

 現在もユーチューブで視聴できるが、2018年9月の自民党総裁選で、石破は安倍首相に二度目の挑戦を試み、NHKをはじめ各テレビ局のニュース番組などで公開討論を展開していた。

 その討論のひとつ、テレビ朝日の報道ステーションで、私は、安倍を前にした石破の表情に異様な感情の高まりとそれを懸命に抑えながら話す姿を見た。その表情の下に渦巻く緊張感が、画面の向こうから伝わって来るようだった。

 森友事件に関連して大規模な公文書改竄の事実を朝日新聞が報道し、意思に反して改竄作業を手伝わされた近畿財務局職員、赤木俊夫氏が自ら命を絶ったのは2018年3月。その半年後の総裁選、テレビ討論だった。

 その一連の問題について質問したキャスターに、安倍はこう答えた。

 「行政のプロセスということについては公正で公明でなければならない。それには心がけてまいりました。今後さらに公文書の改竄があってはなりません」

 言葉づらそのものには何の問題もなく、発音した安倍の音声にも何の問題もなかった。しかし、発生されたその言葉の響きには、文書改竄に対する罪悪感や人の死にまつわる重い情感がなく、地方の特産物を試食した後に感想を喋る時とさして変わらない印象しか残さなかった。

 この安倍の様子を前にした石破は、表情を一変させた。それまでの総裁選候補者の顔から明らかに大きな怒気を含んだ顔に変わった。表情の下では静かな怒りが荒れ狂い、それを必死に抑えつけながら言葉をつないでいる様子がありありと見て取れた。

 「なんで近畿財務局の職員が自ら命を絶たなければいけなかったんですか。そういう人たちがどうしてこんなことにならなければいけなかったんだ、ということをきちんと明らかにしていかなければいけない」

 石破のこの言葉も、文字に起こしてみれば特に変わったものではない。

 しかし、何らかの形で前代未聞の公文書改竄にかかわらざるをえなかった官僚の死に対して、その行政組織のトップが、まるで特産物試食の感想と変わらない調子でコメントする姿を前にして、心の底から怒っている様子は見て取れた。

 「どうしてこんなことにならなければいけなかったんだ」

 石破がそう言及したその近畿財務局の官僚、赤木俊夫氏が死の直前に綴り続けてきた「手記」が『週刊文春』に載った。私が、石破に最初に感想を聞きたかった理由はそこにある。

拡大自民党総裁選で連続3回当選を果たした安倍晋三首相(手前)と握手する石破茂元幹事長=2018年9月20日、東京・永田町の党本部

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筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

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