野球人、アフリカをゆく(25)旧友に明かした心の内と次なる決意
2020年03月21日
<これまでのあらすじ>
かつてガーナ、タンザニアで野球の普及活動を経験した筆者が、危険地南スーダンに赴任し、ここでも野球を立ち上げ、大盛況。女子ソフトボールの発足も視野に入るなど順風満帆。この通算25年にわたるアフリカにおける野球の活動を支えてきたのは、17年前に仲間と立ち上げた「アフリカ野球友の会」だった。 しかし…。
「友ちゃん、こっちこっち!」
2019年11月、文化の日。JR吉祥寺駅の改札を出ると、すぐに低音でややハスキーな声が耳に入ってきた。
「おっ!いちょた!早いな!」。黒いタートルネックにグレーのジャケット姿で片手をあげている『いちょた』こと井下良昭とは、南スーダン赴任前に湘南の友人宅で会って以来、1年3ケ月ぶりの再会だ。
晩秋の東京のひんやりした空気の中、午前10時だけに比較的まばらな人ごみを、井下と肩を並べて歩き始めた。気温40度近い南スーダンから休暇で一時帰国した私にとっては、冷蔵庫の中にいるような感覚の寒さに、思わずポケットに手を突っ込んでしまう。
「まさか今日はグローブもってきてないよね」と突然訊ねてくる井下に「野球はもうシーズンオフだからな。って、そもそも同窓会に参加するのに、グローブもってくるわけないっしょ!」と突っ込む。
「いや、友ちゃんならやりかねないと思ってさ」と人懐っこい笑顔を見せながら、井下の目はやや遠くを見つめていた。
「あ、あそこにカフェがあるな」
「同窓会会場に近くていいね。そこにしよう」
2人して入ったカフェは、ほとんど人が座っておらず、一番端のスペースのゆとりのある席を選んで腰を下ろした。
コーヒーのオーダーを終えるや否や、「で、南スーダン野球はどうよ?」とザクっと訊いてくる井下。中学時代の同窓会は12時から受け付け開始だ。2時間も前に落ち合ったのは、懐かしい旧友たちがたくさん集う同窓会ではサシでじっくり話す時間が取れないと思われたからだ。
「1年経って、彼らもずいぶん野球がわかってきたし、うまくなってきたよ。つい先月には2回目の対外試合をやってね」。「いきなり初めての試合に勝ってたよね」。私が発信するフェイスブックの記事などをよく読んでくれているらしい井下は、わりと近況を把握しているようだ。
「2試合目は、9回までやって、5対7で南スーダンチームが負けたんだけど、接戦で野球らしい、いい試合だったんだよ」。スマホに保存した写真を見せながらその時の様子を説明する私に、「そういえば」と井下はっと思いだしたかのように、目を見開いた。
「まだほんとに始めたばかりの最初の頃、なんていったっけ、背のものすごく高い選手がでてきて、いきなりすごいボール投げてた子いたよね」
「ああ、エドワード君ね。彼は残念ながら、途中から来なくなっちゃったんだよ」
「ええっ!そうなの?なんで?」。表情豊かな井下は、私の分まで残念そうな顔をする。
「今年に入ってくらいから、来なくなっちゃったんだよね。どうも学校にもいけなくなって、バイクタクシーの運転手になって働いているらしいんだよ」
「家の事情なのかね。楽しみにしてたのに、もったいないな。なんかさ、友ちゃんのフェースブック見ていると、ワクワクするんだよ。野球を始めたばかり頃の俺たちを思い出したりしてさ」
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